3.不協和音の始まり

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 マンションに着くと後部座席を振り返り、青白い顔を眺めた。  ツンと高い鼻梁(びりょう)、形の良い薄い唇、閉じた(まぶた)縁取(ふちど)る長い睫毛。  よくもまあ、こんなに見事にバランスよく作られたものだ。 「響、起きろ」  起こすのは忍びなかったが、いくら成瀬でも熟睡(じゅくすい)した響を(かつ)いでは歩けない。  響は細身で体重はおそらく成瀬より軽いだろうが、百八十二センチの身長は成瀬より頭一つ分高いのだ。  引きずっていくわけにもいかない。 「着いたぞ」  その白い頬に軽く手を当てると目が薄く開いた。  むくりと起き上がり外へ出ると顎を上あげ、喉を伸ばすような仕草(しぐさ)をした後、首を左右に振った。 「歩けるか」  声をかけると声を出さずに頷いた。  声を使い果たしてしまったとでも言いたいのか。  差し伸べた手を軽く払って、響は車を降りると歩き出した。
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