3.不協和音の始まり

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 歌うことしかできない響は歌以外の仕事もスキャンダルも今のところ無縁(むえん)だ。  異常なまでにストイックな生活、俺が響なら、とっくに狂っている。  だが、このままじゃ駄目だ。  健全(けんぜん)も度を越せば不自然だ。いつかきっと破裂(はれつ)する。  もう破綻(はたん)(きざ)しは見えている。  いくら彼自身が素晴らしい声で歌っても、彼の周りは不協和音(ふきょうわおん)だらけだ。  そして認めたくはないが、おそらく成瀬もその音の一つなのだった。 「だから、俺はマネージャーを降りたのに……」  響のマンションを出た成瀬は、早足で歩きながら胃のあたりを押さえた。  最近考え事をすると、きゅうと締め付けられるような痛みを感じる。  立ち止まって、息を深く吐いた。  吸って、吐いて、そう、ゆっくり、その調子。  自分に号令をかけて、ゆっくりと顔を上げる。  失うわけにはいかない、そのためならどんなこともやる。  たとえそれが正しいことでなくても、だ。
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