7人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの時は……本当に死んじゃうかと思ったんだ」
思いがけなく本音が口から出た。
きょとんと目を見張った後、響は笑い出した。
「そんなに簡単に死なないよ。死ねないよ。せっかくちゃんと歌える場所を貰ったのに」
そうだ。
それまではどこにも居場所がなかった。
響はいつだって傍観者だった。
強く惹かれるものもなく、何かに夢中になることもない自分は、どこか変なのだろう。
きっと、何かが欠落しているのだ。それが何かはわからないが。
寄ってくる男も女も、本能的にそのことをかぎ取り、離れていく。
気が付けばいつも一人だった。
その方が気楽だった。
興味のない話に相槌を打つことも、声を合わせて笑うことも意味のないことに思えて仕方なかった。
だれとも分かり合えないまま、誰かに必要とされることもなく、日々に流されていく。
自分にとっての本物は、どこにあるんだろう。
最初のコメントを投稿しよう!