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歌うことは好きだった。
もやもやした言葉にならない思いをどこにも吐けない分、喋る相手がいない分、ぶつけるようにひとりカラオケで歌うとすっきりした。
あの日もそうだった。
いつものように、行きつけのカラオケボックスで2時間ほど歌い、会計に向かうと、ちょうど出てきた同じクラスの数人と鉢合わせした。
「あれ、もしかして」
そのうちのひとりが響を指した。
「ハイトーンでずーっとぶっ通しで歌っていたの、お前?」
響は「え? いや、別に」ともごもごわけのわからない返事をした。
面倒臭いやつらに捕まったな、関わりたくない、そんな気持ちで目をわざと合わせなかった。
「なんかひとり、すげー歌うまい奴いるな、って話していたんだ。お前だとは思わなかった」
「オレたち、バンドを組んでるんだけどさ、ボーカルが抜けて困ってるの。文化祭でやるつもりだったんだよ。もうエントリーしちゃったしさ」
響は無言で会計を済ませた。
「ねえ、ボーカルやってくれない? 」
「無理」
顔をそむけるようにして短く答えたが、彼らはあきらめなかった。
「大丈夫だよ。だって、オリジナルじゃなくて完コピだから」
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