4.カウントダウン

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 歌うことは好きだった。  もやもやした言葉にならない思いをどこにも吐けない分、喋る相手がいない分、ぶつけるようにひとりカラオケで歌うとすっきりした。    あの日もそうだった。  いつものように、行きつけのカラオケボックスで2時間ほど歌い、会計に向かうと、ちょうど出てきた同じクラスの数人と鉢合(はちあ)わせした。 「あれ、もしかして」  そのうちのひとりが響を()した。 「ハイトーンでずーっとぶっ通しで歌っていたの、お前?」  響は「え? いや、別に」ともごもごわけのわからない返事をした。  面倒臭いやつらに(つか)まったな、関わりたくない、そんな気持ちで目をわざと合わせなかった。 「なんかひとり、すげー歌うまい奴いるな、って話していたんだ。お前だとは思わなかった」 「オレたち、バンドを組んでるんだけどさ、ボーカルが抜けて困ってるの。文化祭でやるつもりだったんだよ。もうエントリーしちゃったしさ」  響は無言(むごん)で会計を済ませた。 「ねえ、ボーカルやってくれない? 」 「無理」  顔をそむけるようにして短く答えたが、彼らはあきらめなかった。 「大丈夫だよ。だって、オリジナルじゃなくて完コピだから」        
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