4.カウントダウン

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 曲名を聞いて響は納得(なっとく)した。  高校最後の良い思い出に、誰もが知っている流行(はやり)の曲を演奏して盛り上がりたい。  ただそれだけで、バンド存続のためのオリジナリティの追及やポリシーはないに等しい。  そう判断して引き受けた。  大勢の前で歌うのは気持ちよかった。 「歌、うまいね」 「すごかった」 「感動した」  たくさんの声と拍手と笑顔。  耳まで赤くなってううむいたけれど、本当は嬉しかった。  ぴんとこなかった自分の人生、生きている意味がほんの少し見えた気がした。  ステージ。  それは響にとって、たくさんの人と何かを分かち合える唯一の特別な場所、   本物(リアル)を感じられる場所だった。  そうか。  バンドをやればステージに立てる。  人前で歌える。      楽器演奏のできない響は自分の声しかなかった。  苦手だの嫌だのとは言っていられない。  とにかく、バンドを組まない限り、ステージには立てない。  歌うために、ステージに立つために、何でもしよう。  そう決心したが、うまくはいかなかった。   
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