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曲名を聞いて響は納得した。
高校最後の良い思い出に、誰もが知っている流行の曲を演奏して盛り上がりたい。
ただそれだけで、バンド存続のためのオリジナリティの追及やポリシーはないに等しい。
そう判断して引き受けた。
大勢の前で歌うのは気持ちよかった。
「歌、うまいね」
「すごかった」
「感動した」
たくさんの声と拍手と笑顔。
耳まで赤くなってううむいたけれど、本当は嬉しかった。
ぴんとこなかった自分の人生、生きている意味がほんの少し見えた気がした。
ステージ。
それは響にとって、たくさんの人と何かを分かち合える唯一の特別な場所、
本物を感じられる場所だった。
そうか。
バンドをやればステージに立てる。
人前で歌える。
楽器演奏のできない響は自分の声しかなかった。
苦手だの嫌だのとは言っていられない。
とにかく、バンドを組まない限り、ステージには立てない。
歌うために、ステージに立つために、何でもしよう。
そう決心したが、うまくはいかなかった。
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