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ボーカルが必要だというバンドを渡り歩いたこともあったが、お互い居心地が悪くなってすぐ駄目になった。
「歌がいくらうまくても」
と彼らは言う。
「お前とは、やっていけない」
結局、響がステージを経験できたのは高校の文化祭だけだった。
高校を卒業後、バイトしていたライブハウスでボーカルが風邪を引いたからと頼まれて急遽、歌った。
2曲だけだったが、気持ちよかった。
奥底に溜まっていた得体の知れないものが一気に吐き出されたように、歌い終わった身体は熱く、軽くなっていた。
ああ、これだ。
やはり自分の居場所はここにしかない。
涙ぐむような気持ちで、ステージを降りた時、声をかけられた。
「きみ、ちょっと」
見知らぬ男から不意に名刺を差し出された。
生まれて初めて貰った名刺には「ユアミュージック 成瀬啓二」と印刷されていた。
それから世界は一変した。
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