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「大丈夫だよ。つきあうというほどつきあっていない。まあ、いろいろわかったけど」
「わかった、って何が」
「芸能界で一番必要なのは、同じ質問に何度も応える辛抱強さと口角を上げ続ける忍耐力だってこと」
「何をいまさら」
「そういう訳で、僕も考えた。せっかくの場所を奪われるのは嫌だしね」
成瀬はまじまじと響を見た。
「お前、頭いかれたんじゃないのか。そんなことを言うなんて」
「いかれているのは成瀬さんの方だよ」
「は?」
「名前を顔を売れとあれほど言っているくせに、いろいろなオファーを断っているんだろう?」
「お前が断っているんじゃないか」
「そりゃ断るよ。やりたくないもの。でも、嫌がるものを解き伏せてやらすのがマネージメントってもんだろ?」
「何を言っているんだよ」
「やるって言っているんだ」
「え?」
「寄り道している時間はないって思っていた。だからこの五年、歌だけ必死にやってきた。でも、逆にそれじゃ効率が悪いってわかった。これじゃいつまでたっても武道館やドームにはたどりつけない。成瀬さん、あんたの言うとおりだ」
成瀬は思わず胃のあたりを押さえた。
どういう風の吹きまわした。
気味が悪い。
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