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「それに」
それに?
響は何かを言い淀み、目を逸らせた。
「金が要るだろ?」
「金?」
「成瀬さん……具合、悪いの?」
「は?」
「僕がもっと稼いだら、成瀬さんは安心できるんでしょ?」
「どういう意味だ」
成瀬はどんな顔をしていいのかわからなくなった。
響は何か感ずいているのだろうか。誰にも言っていないのに。
そんな成瀬の表情を確かめるかのようにふいに響は身をかがめて成瀬の顔をのぞき込んだ。
「おい、顔が近いぞ。俺は妻子持ちだ」
慌てて成瀬は顔を背けた。
「は? 何、馬鹿なことを言ってるの?」
薄く笑う響は妙にやさしい顔をしていた。
「売れて、事務所に貢献しますって言ってるんだよ僕は。気が変わらないうちに手を打たないと知らないよ」
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