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「一蓮托生って知ってる? それだから」
素っ気ない口調で言うのが染みる。
「あんたがいなくなったら、オファーがなくなって、コンサートも動員数が減って、僕は干されて引退する羽目になりそうだからさ」
「物騒なことを言うなよ。俺はまだ死なないぞ」
「やるからには徹底的にお願いします」
本気でお辞儀をするのを初めて見た。
「僕は最短距離を目指したいんだ。年内には武道館かドームでチケット完売をめざすよ」
「わかった」
妥協と打算。
簡単にできることではないし、すぐに身につくものでもない。
そして成瀬はそれを意識的に行うことで響の持ち味が損なわれるのではないかと危惧していた。
世間にもまれ、慣れていくにつれて、彼の透明な輝きのようなものが濁ってしまうのではないかと不安だったのだ。
だが、本人がやる気になった以上、自分にできることはただひとつだけだった。
ひとりでも多くの人にあの声を、聴いてほしい。
彼の歌に、痺れてほしい。
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