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透明度の高い氷を思わせるような高音を初めて聞いた時の衝撃を、成瀬は忘れられずにいる。
やわらかさと鋭さを併せ持つ、細胞の奥まで震わせるようなその歌声に身を委ねていたい。
息をするのも忘れ、酔ったようにその声に飲みこまれた。
自分の体を忘れ、肉体を置き去りにした心は解き放たれ自由になる。
涙が流れるほどの快感。
何だ、これは。
成瀬は頬に流れる涙を周囲に気づかれぬよう掌でそっと押すようにして拭った。
世の中に出したい。
このまま埋もれさせたくない。
小さなライブハウスで出会えた偶然を広瀬は無駄にするつもりはなかった。
俺が、売ってやる。
俺が、聞きたいんだ。
すべてを整えた最高の舞台で、こいつの歌を聞いてみたい。
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