1.楽器の主張

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 透明度(とうめいど)の高い氷を思わせるような高音を初めて聞いた時の衝撃(しょうげき)を、成瀬は忘れられずにいる。  やわらかさと鋭さを併せ持つ、細胞の奥まで震わせるようなその歌声に身を(ゆだ)ねていたい。  息をするのも忘れ、酔ったようにその声に飲みこまれた。  自分の体を忘れ、肉体を置き去りにした心は解き放たれ自由になる。  涙が流れるほどの快感。  何だ、これは。  成瀬は頬に流れる涙を周囲に気づかれぬよう(てのひら)でそっと押すようにして(ぬぐ)った。  世の中に出したい。  このまま埋もれさせたくない。  小さなライブハウスで出会えた偶然を広瀬は無駄(むだ)にするつもりはなかった。  俺が、売ってやる。  俺が、聞きたいんだ。  すべてを整えた最高の舞台で、こいつの歌を聞いてみたい。
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