4.カウントダウン

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 すまない。  良い夫ではなかった。  いい父親ではなかった。  それでも俺は結構幸せだった。  いい人生だったと思う。  長生きの約束は果たせなかったが、もう俺がいなくても響は大丈夫だろう。それが少し寂しく、とてもうれしい。 「あっ。お父さん、羽鳥さんからライブの中継映像が来てる!」 「極秘で送ります、って、ほら!」  妻と娘が差し出す四角い強い光。  マイクのハウリングの音。  歓声。  ああ、ライブだ。  そこに立っているのは響か。    何もかもをしっかりこの目で見ていたい。  そんな思いで見開いた目から、温かい液体が流れているのを感じる。  畜生(ちくしょう)。  あたりが滲んでよく見えないや。  でも感じる。  小さなスマートフォンに浮かび上がっている画像は荒く、音も酷い。  それでもわかる。  会場を包んでいる空気と熱気。  成功だ。  良かった。  ほっと息をつく。
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