4.カウントダウン

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   涙には二種類ある。人のために流す涙と、自分のために流す涙だ。  この涙はどちらだろう。  たぶん両方だ。  ……響、最後にあの曲を歌ってくれないか。俺たちの始まりの、あの歌を。    キイイーン、マイクのハウリングの音に拍手と歓声でうるさかった会場が一瞬、静まった。 「みなさんのおかげで今日まで歌ってくることができました。僕の始まりの曲、デビュー曲を歌わせて下さい」  歓声と拍手。  顔をあげ、目を閉じて浴びるように受け止める。  息を吸い、ゆっくり吐く。  オーケー、ベストコンディションだ。  響は、頭の上で大きなマルを作り、バックメンバーを振り返った。  ギタリストが親指を立てる。  ベーシストが弦をはじいて、頷く。  ドラマーがスティックを掲げて鳴らす。  キーボードからメロディが流れた。
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