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歌うこと以外、何もできないに等しい響が自分を楽器だと言うなら、俺は自分の一生をそのメンテナンスに捧げよう。
決して口には出さない誓いを成瀬はたてたのだった。
そのためには、売れてくれないと困る。
もっと貪欲になってくれなければ困る。
すべては歌うためだ。
そのために俺は頭を下げ、胸糞悪いやつらのどうでもいい話に愛想よく同調し、走り回っているのだ。
文句の一つも言いたくなる。
「俺が、頭を下げて必死でとってきた雑誌の仕事をめちゃくちゃにしやがって」
生意気。礼儀知らず。いくら歌がうまくて顔がきれいでもあれじゃあね。
広瀬さん、これは忠告だ。このままじゃ、あいつのせいであんたの評判も落ちるだろうよ。いや、もう落ちてるかもな。
同業者のやっかみだ、と笑ってみせたが半分、真実であることもわかっている。
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