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……クソ真面目なやつ、か。
ふ、そういや居たなぁ。昔、あぁ~2000年前も前になるか?、短い間だったが、ひときわ馬鹿みたいにクソ真面目なやつの面倒を見ることになってなぁ。
ソファーの上でだらしなく大の字になって、無機質な天井を見上げ、あの頃を思い出す。
……2000年もコールドスリープしたってのに、鮮明に思い出せちまうなぁ……。
『……つまるところ、自分にその子の指導をして欲しいと?』
『そうだ。短い間だが、引き受けてくれないか?』
そいつに会う発端となったのが、とあるキャストからの連絡だった。自主トレを終えて、休憩中のところを通信モニター越しから頼まれる形になったのが始まりだった。
『なぜわざわざ自分に?あなたの方が経験も豊富でしょうし、他にも適任者がいるのでは?』
『その適任者がお前だからこそ、こうして連絡をしているんじゃないか』
やれやれ、といった感じに、反論の余地なしというぐらいの正論をかまされてしまった。腹立たしいと思えるが、冷静に考えれば俺の質問のほうが愚問だな。
『……ですね。失礼しました』
今通信モニター越しに、俺に頼み事を持ち込んできているキャスト。名前はイオニック。全身を見事にキャスト化していて、ホワイトカラーをベースに、所々にレッドをサブカラーとしてパーツを染め上げている…のを自慢にしている。
おまけにカフェオレが大好物というユニークな思考のキャストだが、元アークス特殊部隊の一員でその実力は相当なもの。軍事階級となると俺よりも上だ。もちろん、年もな。
『本人の立場上、公な所での指導を避けつつ、あまり人目もつかないよう且つ専門的なトレーニングを施せる。確かにこれらの条件を満たすとなると、自分以外無いと言えますね』
色々とこっちも良くしてもらった恩もあって、部隊は違えど様々な意見交換や情報交換を行っているぐらいの仲だが、まさか個人的な依頼まで引っさげてくるようになるとは。
『そういうことだ。ただ専門的なトレーニングと言っても、俺にとっては息子みたいな奴だ。あまり無理させないでやってくれ……できるだけ、怪我はさせたくない』
加えて過保護ときた。軍事者として、専門的なトレーニングをするってことがどういう事か、それを分からないはずはないんだが。まぁ、保護者という立場となれば、得てしてそういうものになってしまうのかもしれないな。
『正直、報酬もろくに出せない慈善活動みたいな事を頼んでいるのは、すまないと思っている。もちろん、俺自身であいつを指導してやりたいんだが、今はあいつの身の回りを守ることで必死でな』
そしてイオニック自身、今色々と複雑な状況下にある。久しぶりの通信だったが、多くを語らず、深妙な雰囲気で話持ちかけてきたんだ。その雰囲気を察せられないほど、俺は薄情じゃない。同じ複雑な状況を経験した身なら、尚更だ。
『分かってます。もとより断るつもりは最初からないですよ。最善は尽くします』
だから俺は、これ以上四の五の言わず、イオニックの頼み事を引き受ける形を取った。
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