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『……感謝する』
『礼を言うのは全て片付いてからにしましょう。まだ始まってもいないですからね。ところでいくつか質問したいのですが』
『なんだ?』
『プロフィールを見る限り、何といいますか……かなり真面目なタイプに見えるんですが、自分が囚人という立場だということを本人は?』
『知らせていない。あくまで俺の友人という事で話を通してある。初手からあいつに警戒心を抱かせるわけにはいかないだろ?』
『本人に追求されたら?』
『余計な詮索はしないよう釘を刺しておく。ないと思っていい。その辺りの礼儀はあいつもよく分かっているからな』
なるほど、余計な所から情報が漏れないためにも、お互い意識させればなお徹底されるか。
『他に質問は?』
イオニックの言葉に俺は軽く首を横に振る。慈善活動のブリーフィングとしてはもう十分だろう。
『では俺から一つ質問をしたいんだが』
『なんでしょう?』
『……さっきからなぜそんな畏まった話し方をしているんだ?』
あぁ、やっと突っ込んでくれたか。どこで突っ込んでくれるかずっと待っていたんだが、この人も大概真面目だな。
『上官殿がお相手ですので、当然の作法かと』
『俺はもう部隊からは退いている。だからやめてくれないか?苦手なんだよ、こういうのは』
『そういう訳にはいきません。規律は重んじるべきです』
と、うんざりするイオニックに俺は半分笑いを堪えながら返したんだが。
『じゃあ元上官らしく命令する。やめろ』
おっと声がガチ目のトーン。さすがにここまでにしておくとするか。
『イエッサー。ほんのジョークのつもりだったんだがな』
『お前のジョークのセンスは時々気持ち悪いから本当にやめてくれ』
だったら、あんたもツッコミのタイミングをもうちょっと学習したほうが良いんじゃないか?っと言おうと思ったが、これ以上からかうと、モニター越しに拳が飛んでくるだろう。名残惜しいがここいらでやめておこう。
『はぁ……とりあえず、宜しくしてやってくれ。俺が言えた義理じゃないが、あいつを頼む』
『あぁ。出来る限りの事はやってみるさ』
モニターの端に縮小化されているファイルを拡大させて、これから来るであろう新人のプロフィールに再度目を通す。
年齢16歳。種族はニューマン。フォトン適性は最低ランクのFでありながらも、身体能力の項目のほとんどをAで埋め尽くしている。フォトン適性の低さはアークスとしては致命的だったが、努力の末、4度目の試験にて配属を認められたアークス……
名前は………
『シェイルです。よろしくおねがいします』
静かながらも、第一声の挨拶から確かに感じるやる気と熱意。16歳という年に相応しい顔つきだが、プロフィール画像にも映っていた通り、悪目立ちする頬の十字傷が、せっかくの整った顔つきの雰囲気にまで傷を付けてしまっている。
なるほど、イオニックの言っていた通り、いかにも訳ありって感じの雰囲気がビンビンだな。
『ジェフ・D・メイスンだ。今日からお前さんの訓練を専属として担当する』
訓練開始日、本人は訓練用として支給された迷彩服を着込んで、待機状態の姿勢を維持している。
『早速だが訓練を開始する。内容は単純だ。支給された装備を使って、この大型シュミレーター内をひたすら駆け回り続けること。途中発生するトライアルをこなしつつ、時間いっぱい周回数を稼ぐ。理解したか?』
『はい!』
ん~質問なく反抗的態度もない良い返事だ。実に楽しみにさせてくれる、とてもとても良い返事だ。
『俺は管制室からモニタリングしている。ルート案内とトライアル内容はしっかり指示してやるから安心しろ。まぁ、せいぜい良いスコアを出してみな。期待は全くしてないがな。んじゃ、訓練開始だ!!』
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