どまじめ君の可能性

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さてさて、どんなものやら。お手並み拝見といこう。 『まずはマーカーポイントの位置まで進め!初動で遅れるなよ!』 俺のヤジを合図に、シェイルが全力でスタートダッシュをきった。 と、早速ここでちょっとした嫌がらせ。本人には至ってシンプルな訓練内容だと説明はしたが、実はこの訓練、フォトン適性を持たない奴にとっちゃ、地獄を見る羽目になる様にしてあるのだ。生命維持最低環境指数、こいつを極限にまで低く設定してある。当然この部分はシェイル本人には言っていない。なんせ一切の質問もなく、二つ返事で訓練に臨むと、そう返事したからな。 この設定だと、まず大気中の酸素濃度が、人体が活動出来るギリギリのラインまで低下する。加えて一定間隔毎に、空気中の成分に、死にはしない程度の有害成分が混ざるようにもなる。 傍から聞きゃ、死ぬだろ!?ってなるだろうが、そこは設定どおり、ギリギリ死にはしない。だが文字通り、生き地獄を味わう事になる。その中でシミュレート、さぁて……どんな反応になるやら。 『……あ』 俺に気づくと、両手を地面につき、ふらつきながら半身を起こした。 案の定死にかけ寸前の状態になっているな。目の焦点がまともに定まっていないし、口から肺を発射するんじゃねぇかってぐらいに、大きく連続で過呼吸を繰り返している。 顔面も蒼白。訓練着の迷彩服も、汗を吸いまくって変色している。辛うじて横になりつつ、安静の姿勢を保っているって感じだな。 『すみません。僕──』 『スコアは……0だ。まぁ予想通りだな』 本人は命を繋げる呼吸をすることで必死だろうが、言葉はきっちりと頭に入っているという前提で話を進める。 『本来ならフォトン適性を持ったやつが受ける訓練だ。適性を持たないお前さんがやりゃ、こうなって当然だ』 シェイルは肩でぜいぜいと息をしながらも俺の話を真剣な眼差しで聞いている。悪くない回復力だ。 『理不尽な設定だなんて言うなよ?お前さんはれっきとしたアークスだ。アークスとして配属されてしまった以上、たとえ適性をもたないお前さんでも、いざとなりゃそういう場所に緊急配備される可能性だってある。分かるな?』 『……は、い』 うむ。本当に良い根性をしているな。ないものをねだってもしょうがないとは分かっちゃいるが、これでもし、フォトンの才能にちょっぴりでも恵まれていりゃ、いいポジションまで行けたんだろうがなぁ。 『とはいえ、普通なら最初のポイントに到達するまでに、気絶してるシミュレート内容だ。それをお前さんは、半分まで到達しやがったからな。その適性で大したもんだ』 これは素直な俺の感想だ。慰みでも、ましてや励ましの目的で言ったわけじゃねぇ。本人がどう受け止めるかは、本人次第だ。 『俺から言えるのはとりあえずここまでだ。20分の休憩後、訓練再開だ』 腕に装着している軍用時計のタイマーをセットし、管制室に戻ろうとした時。 『ま、待ってください』 息もまだ絶え絶えだが、シェイルの小さな声が、俺を呼び止める。
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