長女

3/5
前へ
/5ページ
次へ
「どうしよう。どうしよう」 「どうしたんだ?」 「上の子が幽霊に取り憑かれてる」 「は? 何を言ってるんだ?」 「最近、あの子おかしいのよ。  何も無いところに話しかけたり笑ったりしてるの」 「ああ、イマジナリーフレンドってやつなんじゃないか。  想像力が豊かな子なんだなあ」 「私も最初はそう思ったのよ。  でもあの子、“さーちゃんと一緒に遊んでる”って言うのよ」 「ほら、やっぱりイマジナリーフレンドだよ」 「さーちゃんの本当の名前は『早希子ちゃん』だって」 「えっ⁉︎」 「ね? おかしいでしょ?   だってあの子が早希子のことなんか知ってるはずがないもの。それなのに……。  きっと水子の霊に取り憑かれてるのよ。どうしよう。どうすれば良いの」 「ぐ、偶然だよ。よくある名前だし、たまたま被っただけだって」 「でも……」 「そんなに気にしなくても大丈夫だよ」 「でも……」 「ああ、育児で疲れてるんだね。今日は子供達の寝かしつけは俺がやるから。  君はゆっくり眠ると良いよ」 「うーん……」 『早希子』の名前が出た時、一瞬だけ夫は顔をこわばらせた。 が、すぐに冷静な顔で現実的な考えを示した。 今ひとつ納得できないまま、私は夜を明かした。 翌日も、上の子は『さーちゃん』と遊んでいた。 私が下の子の面倒を見ている間ずっと、楽しそうに遊んでいた。 可愛いはずの朗らかな笑顔が、だんだん恐ろしく思えてくるようになった。 更に、私は自宅の中の異変に気付くようになった。 ふとした瞬間に人の気配を感じたり、誰もいないはずなのに足音が聞こえたり、 不意に服を引っ張られる感覚がしたり…… いわゆる怪奇現象というやつだ。 私も『早希子』の霊に取り憑かれてるんだと思った。 生まれてこれなかったあの子が、私を恨んでいるんだと思った。 少しの物音にもビクビクするほどに私は追い詰められていた。 そんな日々に耐えかねて、私はついに夫に切り出した。 「お祓いを受けたい」と。 夫は少し戸惑っていたが、やがて首を縦に下ろしてくれた。 きっと、ここ最近の私の様子を慮ってくれてのことだろう。 「それで君の気が晴れるのなら」と言って了承してくれた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加