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「どうしよう。どうしよう」
「どうしたんだ?」
「上の子が幽霊に取り憑かれてる」
「は? 何を言ってるんだ?」
「最近、あの子おかしいのよ。
何も無いところに話しかけたり笑ったりしてるの」
「ああ、イマジナリーフレンドってやつなんじゃないか。
想像力が豊かな子なんだなあ」
「私も最初はそう思ったのよ。
でもあの子、“さーちゃんと一緒に遊んでる”って言うのよ」
「ほら、やっぱりイマジナリーフレンドだよ」
「さーちゃんの本当の名前は『早希子ちゃん』だって」
「えっ⁉︎」
「ね? おかしいでしょ?
だってあの子が早希子のことなんか知ってるはずがないもの。それなのに……。
きっと水子の霊に取り憑かれてるのよ。どうしよう。どうすれば良いの」
「ぐ、偶然だよ。よくある名前だし、たまたま被っただけだって」
「でも……」
「そんなに気にしなくても大丈夫だよ」
「でも……」
「ああ、育児で疲れてるんだね。今日は子供達の寝かしつけは俺がやるから。
君はゆっくり眠ると良いよ」
「うーん……」
『早希子』の名前が出た時、一瞬だけ夫は顔をこわばらせた。
が、すぐに冷静な顔で現実的な考えを示した。
今ひとつ納得できないまま、私は夜を明かした。
翌日も、上の子は『さーちゃん』と遊んでいた。
私が下の子の面倒を見ている間ずっと、楽しそうに遊んでいた。
可愛いはずの朗らかな笑顔が、だんだん恐ろしく思えてくるようになった。
更に、私は自宅の中の異変に気付くようになった。
ふとした瞬間に人の気配を感じたり、誰もいないはずなのに足音が聞こえたり、
不意に服を引っ張られる感覚がしたり……
いわゆる怪奇現象というやつだ。
私も『早希子』の霊に取り憑かれてるんだと思った。
生まれてこれなかったあの子が、私を恨んでいるんだと思った。
少しの物音にもビクビクするほどに私は追い詰められていた。
そんな日々に耐えかねて、私はついに夫に切り出した。
「お祓いを受けたい」と。
夫は少し戸惑っていたが、やがて首を縦に下ろしてくれた。
きっと、ここ最近の私の様子を慮ってくれてのことだろう。
「それで君の気が晴れるのなら」と言って了承してくれた。
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