番外編 白龍の恋 

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 宴の最中に円珠は笑みを浮かべながら、体が震えていることがある。体の大きな神獣や神々と話すのは怖いのだろう。密かにそんな姿も愛らしいなと思ったが、他の者が気安く彼に近づくのは嫌だった。  そっと円珠を外に連れ出すと、飛びきり嬉しそうに笑う。  帝の庭には美しいものがたくさんある。泉の水を使って虹を作れば喜び、宙に浮かぶ雲を集めればさらに喜んだ。  ある時、美しい雲をいくつも取ってくると、腕にたくさん抱えて、きらきらと目を輝かせた。 「翔波様! すごい! ふかふかの雲がこんなにっ」  浮かび上がりそうになる雲を必死でつかまえているので、体の軽い円珠も一緒に浮き上がってしまう。このままでは風に飛ばされかねない。慌てて、近くにあった雲海から二人で座れるほどの雲を引きちぎってきた。  円珠の体をひょいと掴んで一緒に雲に座った。私が胡坐(あぐら)をかくと、円珠は隣できちんと正座している。 「く、くもの……雲のふとん! 宙に浮かんでる……」 「布団と言うには、少し狭いと思うが。たまには天の散歩もいいだろう」  急に高くなっては驚くだろうと、雲の力を抑えながら風に乗った。円珠は初めての浮揚が怖いのか、ぴたりと体を寄せてくる。心臓が跳ねるのを何とか押さえつけて、一緒に雲の下を見た。帝の宮殿が陽を受けてきらめき、広大な庭園が眼下に広がっていく。 「すごい。雲に乗ったのなんて初めて……! 翔波様たちは天を翔けることができるでしょう。ずっと羨ましく思っていました」  きらきらと輝く瞳を見ていると、龍体になってこの背に乗せたらどんなに喜ぶのだろうかと思う。 「円珠は天を翔けたいのか?」 「はい。僕は地上が好きです。天から山や川を見ることができたら、どんなに美しいだろうと思うのです」  円珠の言葉に驚いた。  地上は気候ひとつ安定せず、生きるために争うことも多い。生き物たちの寿命は天界に咲く花よりも短く、儚いものだ。誰もが天に憧れるのに、其方は地上が好きだと言うのか。 「地上が……好き?」 「はい。地上には季節があって、たくさんの生き物たちがいます。寒いのは苦手ですが、陽の光が暖めてくださいます」  なぜだろう。胸の中に、いらいらした気持ちが湧く。  地上などより、この天界の方がずっと円珠にはふさわしいのに。そう言いたくてたまらなかった。 「其方は、地上よりもずっと、この天に合った気性ではないか。たしかに蛇族ではあるが、地を這う他の者とは全く違う」  円珠は驚いたように目を見開いて、じっとこちらを見た。
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