壱 一人ぼっち

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「あ……あの」 「……くくっ。其方は相変わらずだな。目覚めてしまったからには仕方がない。ここに一人きりでいては心細かろう。私の屋敷に来ないか?」 「え? で、でも、御迷惑では」 「其方一人、何の迷惑になるものか」  翔波様にそう言われては、話は決まったも同然だった。いつもどこかぼうっとしている僕は、考えているうちに周囲で物事がまとまっていることが多い。ちなみに、たまたま僕がそうだというだけで、一族がのんびりしているわけではない。 「では、行くか。しっかりこの胸に収まっているがいい」 「あ、あの」 「何だ?」 「これから天を翔けるのですか?」  僕はずっと、龍族の天翔ける姿を羨ましく思っていた。一度でいいから、堂々とあの空を翔けることが出来たら……と。わくわくしながら翔波様を見ると、困ったように眉を下げている。 「そんな期待した目をされると叶えてやりたくなるが。万一、小さな其方を背から振り落としては困る。またの機会にしよう」  成程と頷くと、翔波様は僕をしっかり抱きしめた。屋敷に連れていくと言った途端、体が風に包まれた。  目を開けていられないほどの風が周りをびゅうびゅうと吹き抜ける。僕は翔波様の羽織をしっかりと握りしめていた。着いたと言われて目を開けたら、大きな門がそびえたっている。門番たちが朗々たる声で主の帰還を告げ、玄関に向かえば眷属がずらりと並んで頭を下げた。翔波様は僕を腕に抱えたまま、屋敷に入った。 「あ、あの、もう下ろして……」 「誰か!」 「は! ここに」  上がり(かまち)の向こうに平伏するのは翔波様の一の従者だ。 「円珠の部屋を用意せよ」 「かしこまりました。ただちに」  翔波様は履物を脱ぎ捨て、奥へと向かう。畳を進めば襖が次々と左右に開き、どこまでも座敷が続いている。龍族の屋敷はどこも、ものすごく広い。そう聞いてはいたが実際に目にすると驚くばかりだ。呆然としているうちに、翔波様が足を止めた。 「茶の用意が出来たようだ」  奥座敷には、二人分の席が用意されていた。そっと畳に下ろされると、翔波様と並んで座る。楚々とした侍女たちが香り高いお茶を淹れてくれた。琥珀色のお茶の中にはふわりと花が咲き、春がそのまま運ばれてきたようだった。 「美味しい」  一口飲んでほっと息をつくと、翔波様がじっとこちらを見ている。 「腹が減っているだろう。冬ごもりの途中で起きたのだから」  そう言われると急にお腹がすいてきた。侍女の一人が音もたてずに部屋から出ていく。僕は翔波様を見ながら、しみじみと御礼を言った。 ✦~・~✦~・~✦~・~✦~・~✦~・~✦ 今年の書き始めです。毎朝7時更新、翔波と円珠の恋を読んでいただけたら嬉しいです!どうぞよろしくお願いします(о´∀`о)💕
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