ふるえる願望天

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ふるえる願望天

 初夏の陽射しが降る通りを(こう)は歩いていた。  大学の文学部を卒業し、かれこれ二年になるが、定職に就くわけでもなく、アルバイトで生計を立てている。  向かう先は、父方の祖父が営む骨董店———寛粋堂(かんすいどう)だった。幼い頃、父の葬儀で会ったきり、祖父とは疎遠になっていたのだが、肺炎で入院するとの電話を受け、急遽、店番を引き受けたのである。給料が出るなら問題ない。昴は思う。しかし、母は表情を曇らせた。  もともと寛粋堂は、母方の祖父と父が営んでいた店だ。父が亡くなったあとは祖父が一人で経営しており、なぜか母は頑なに手伝おうとはしなかった。  そういえば昔から寛粋堂を気味悪がっていて、「絶対にあの店に行ってはダメよ」と、幼い頃に何度も言われた記憶がある。  そんなに変なものを売っているのかな、と昴は思う。ただの骨董屋ではないのだろうか。
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