ふるえる願望天

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 昴は静かに近寄って、部屋の戸に手を掛けた。そのまま、ギィっと戸を開くと、部屋の中央に両手で抱えるほどの木箱が置かれていた。蓋には古いお札のようなものが封をするように貼ってあり、何かが書かれているようだが、風化して判読出来ない。  とりあえず箱を開けてみようか。  昴はお札を丁寧に剥がし、爪を使って木箱の蓋を開ける。中から出てきたのは、かなり精巧に作られた木彫りの座像で、頭部は象の形をしており、胴から生えた腕は四本。太鼓腹で奇妙な姿をした仏神が、じっと昴を見ている。人が彫ったというよりも、魔法で座像に変えられたような生々しさがあって、今にも動き出しそうだった。  ———震える歓喜天に供物を捧げて祈り、再び歓喜天が震えれば願望が成就する。  『不浄仏の怪』の一節を思い出し、昴は歓喜天を取り出して畳の上に置いた。好奇心というよりも、魔物に取り憑かれたような感覚だった。願いはもちろん決まっている。
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