ふるえる願望天

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 まさか、と思った。先ほどまで沈黙していた歓喜天が揺れており、供えたピアスも無くなっている。電話を切ったあと、慌てて周りを探してみたが、それらしきものは見つからなかった。いったい、どういうことだろう。願望を成就させるには、相応の対価が必要だと思っていた。まさか、ピアスひとつで叶うなんて‥‥。 「ちょっと昴、聞いてる?」  母に肩を叩かれて、昴は我に返った。帰宅してからずっと、昼間の出来事を考えていた。昴は夕食のスパゲッティにフォークを絡めたまま、「ごめん、なんの話しだっけ」と慌てて言う。 「やっぱり、寛粋堂へ行くのをやめない?」 「なんで?」 「‥‥あなたには言ってなかったけど、お父さんが自殺したのは、寛粋堂の奥の部屋なのよ」  母の言葉を聞いた瞬間、こうしてはいられないという気持ちになった。どうして父は寛粋堂で死んだのか。その死因に歓喜天が関わっているのか。それは『不浄仏の怪』を手に取ってから、昴自身が気になっていたことである。
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