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しかし、思案に耽ってばかりもいられない。受賞するためには、プロの審査員の票を獲得しなければならない。少なくとも自分の全力を注ぎ込んだ作品ではあるが、最終選考に残ったのは歓喜天の力だ。自分の筆力に依るものではないと自覚している。昴は選考会までの日々を、対価を考えることに費やした。最終選考に残るよりも大きな対価を要求されるならば、やはり誰かの命を犠牲にするしかないのだろうか。寛粋堂のカウンターに頬杖をついていたら、ふと、母の顔が浮かんだ。残された唯一の家族だった。
もちろん躊躇いはあるが、時間は答えを待たずして過ぎていく。同時に、物書きとしての欲が大きくなっていった。受賞した自分を想像するだけで、身体中を喜びが駆け回り肩が震える。
「歓喜天さま。どうか、受賞させてください」
参考会の前日、昴は歓喜天に手を合わせていた。目の前にいる歓喜天の気味の悪さに、ここまでして願望を成就させようとしている自分に、黒々とした液体のような澱みを感じる。
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