ふるえる願望天

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 地図アプリを見ながら歩いているうちに、目的地の古い長屋に着いた。予め渡されていた鍵で中へ入ると、ひんやりとした空気が昴を包む。  薄暗い店内は土壁で囲まれており、アンティークのジュエリーや陶器、掛け軸や仏像などが所狭しと並んでいる。壁のスイッチを押すと、ぶら下がった裸電球のオレンジ色が、その雑多なもので満ちた通路を奇妙な迷宮の入り口のように照らした。  通路は会計カウンターの奥まで続いていたが、硝子格子の戸で区切られ、その奥は分からない。もしやその先には、一見さんには紹介できない奇妙な品が置いてあるのだろうか。  昴は格子戸を見つめながら、祖父との電話の内容を思い出した。  店頭に置いてあるものは、付いている値段で売っていい。それ以外の‥‥例えば、こういう物があったはず、などという客が現れても、親切心で商品を探してはいけない。何があっても、奥の部屋には立ち入るな———そういう話しだった。
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