ふるえる願望天

3/20

20人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
 ひとまずカウンターの椅子に腰掛けて客が来るのを待った。しかし、朝から骨董屋を訪れる物好きな客などいるはずもなく、三十分、一時間、二時間と、時間ばかりが過ぎていく。    こうしている時間が勿体無い。昴はカウンターにノートパソコンを広げ、書きかけのウェブ小説を進めるつもりだった———が、突如として現れる劣等感の三文字が、重く指にのし掛かる。アルバイトをしながら本気で小説家を目指して二年、さまざまなコンテストに挑戦するも結果は惨敗。何を書いても読者がつかないまま、作品たちはウェブ小説の海に沈んでいった。今日もまた、書いては消してを繰り返すほどに息が苦しくなる。次第に自分も溺れているような感覚になって、昴は喉に指を這わせた。  あの日、弟も同じような苦しみを味わっていたのだろうか。目を閉じると、家族旅行で行った海岸がよみがえる。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加