ふるえる願望天

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 男は真っ直ぐと歩きながら、「おや、お兄さん知らん顔やな」と言う。 「ああ、すみません。入院した祖父に代わって、留守を頼まれまして」 「そら心配やな。———で、どうなん。葉山さんの病状は、あんまりよくないのやないか? ここんとこ、よお咳しとったからな」 「さあ、どうでしょう。本人は大したことない、風邪みたいなもんだって言ってましたけど」 「ほう、そら結構なこっちゃな」    そう言うと、男はぶらぶらと店内を回り、アクセサリーを鏡で合わせたり、陶器の茶碗を眺めたりしている。しばらくそうしたあと、「なぁ、お兄さん」と昴を呼んだ。 「は、はい。なんでしょう?」 「この店に、木彫りの歓喜天(かんぎてん)あるやろ? それ、見してもらえへんか?」 「かんぎ? なんですかそれ?」 「ほら、身体は人間で頭は象の———っちゅうかお兄さん、涸沢仁平(からさわにへい)の息子やのに、歓喜天知らんの?」  何の話しをしているのかさっぱりわからない。昴は眉間を寄せる。 「‥‥僕の苗字は葉山ですよ」 「ちゃうちゃう。涸沢仁平はペンネーム」  
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