20人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
男は真っ直ぐと歩きながら、「おや、お兄さん知らん顔やな」と言う。
「ああ、すみません。入院した祖父に代わって、留守を頼まれまして」
「そら心配やな。———で、どうなん。葉山さんの病状は、あんまりよくないのやないか? ここんとこ、よお咳しとったからな」
「さあ、どうでしょう。本人は大したことない、風邪みたいなもんだって言ってましたけど」
「ほう、そら結構なこっちゃな」
そう言うと、男はぶらぶらと店内を回り、アクセサリーを鏡で合わせたり、陶器の茶碗を眺めたりしている。しばらくそうしたあと、「なぁ、お兄さん」と昴を呼んだ。
「は、はい。なんでしょう?」
「この店に、木彫りの歓喜天あるやろ? それ、見してもらえへんか?」
「かんぎ? なんですかそれ?」
「ほら、身体は人間で頭は象の———っちゅうかお兄さん、涸沢仁平の息子やのに、歓喜天知らんの?」
何の話しをしているのかさっぱりわからない。昴は眉間を寄せる。
「‥‥僕の苗字は葉山ですよ」
「ちゃうちゃう。涸沢仁平はペンネーム」
最初のコメントを投稿しよう!