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さらに戌亥が続ける。
「しゃあないな。ほんまは歓喜天をもらうつもりやったけど、気が変わったわ」
そういえば、歓喜天の詳しい話しを聞いていない。昴が声を掛けようとするも、戌亥はひらりと背を向けて、格子戸を引いてしまった。
「ほな、また来るわ」
昴は外に出て戌亥を見送った。店に戻って原稿を再開しようとしたところで、あの本が目に留まる。そして、気がつけば頁をめくっていた。
『下町の骨董屋にて、像の頭をもつ仏神と出会う。大きさは三十センチほどで、頭部が象の形であらわされており、胴体から四本の腕が生えた、木彫りの仏像である。店主はそれを歓喜天と呼んだ。さらにこの歓喜天には、願いを叶える不思議な力があるという。』
そんな文章から『不浄物の怪』は始まる。
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