1-01出会い

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1-01出会い

「いきます、『障壁(バリア)』!!」 「いいですよ、シャイン公爵令嬢。そのまま、防御魔法を維持して」 「はい、先生。でもどうして最初に覚えるのが、『障壁(バリア)』の魔法なんですか?」 「それは貴女が高貴な女性だからです、いざという時に自分の身が守れるように、まずはこの魔法を覚えてください」 「はい、分かりました。先生、この防御魔法は上手くできていますか?」 「そうですね、では公爵令嬢ちょっと失礼致します!!」  私の名はシャイン・コンセプト・ディアノイア、公爵令嬢で銀色の髪に金色の瞳を持っていた。五歳になった私は今は魔法の勉強をしていた、それは『障壁(バリア)』という魔法で、どうして私はこの魔法から覚えるのか不思議だった。でも先生に聞いたらそれもそうだなと納得した、先生は私の作った『障壁(バリア)』に対して鞘に入れたままの剣を振り下ろした。それでも、私の『障壁(バリア)』は少しも揺らぐことがなかった。 「はい、ここまでできれば合格です」 「ありがとうございました、先生」 「次からは別の魔法を教えます」 「分かりました、先生」 「今日の覚えた魔法の感覚を忘れずにいてください、そして、この魔法をいつでも使えるようにしていてください」 「ええ、そうします。先生」  そうして私が魔法学の授業を終えると、お父さまから呼び出しがあった。至急ということなので、私は軽く汗をふいて身なりを整えるとお父さまのところへ向かった。お父さまは執務室で私を待っていた、そうして満面の笑顔で私のことを抱き上げた、これは余程良い事があったのだろうと私は思った。そうして、私はお父さまから私の婚約者が決まったと言われた。 「シャイン、お前の婚約者が決まったぞ」 「まぁ、お父さま。それは一体どなたでしょうか?」 「第一王子のデクス・イデア・ストラスト殿下だ」 「それはおめでとうございます、お父さま」 「はははっ、第一王子で王太子の婚約者だ。後日、ご挨拶に行くから用意しておくといい」 「かしこまりました、お父さま」  こうして私は第一王子で王太子のデクス・イデア・ストラスト様の婚約者になった、顔も知らない婚約者だったが貴族や王族の間の結婚では珍しいことではなかった。私はデクス殿下が優しい方なら良いなと思っていた、そう私が愛せるような優しい方なら良いと思っていたのだ。私は公爵令嬢だったから、政略結婚は仕方なかった。でもできれば私はお互いに愛し合える、そんな仲が良い夫婦になりたかった。 「デクス・イデア・ストラストという、面を上げ話すが良い」 「シャイン・コンセプト・ディアノイアと申します、デクス殿下」  そうして、数日後には私は謁見の間でデクス殿下に会っていた。彼の前で両手でスカートの裾を軽く持ち上げて、片足を斜め後ろの内側に引いてもう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばしたままで美しいカーテシーを披露していた。デクス様は金色の髪に綺麗な蒼い瞳をした、私と同じくらいの可愛い五歳の男の子だったが、もう冷静な為政者の目をしていた。  私を見る目も最初のうちは冷たくて、私が政治的にどんな役に立つのかを考えているようだった。私は少しだけそれを寂しく思ったが、公爵令嬢である私が政略結婚をするのは当然だと思いなおした。たとえそこに愛情が生まれなかったとしても仕方ないことだった、政略結婚というのは我が家と王家を繋ぐだけの、ただそれだけのためにする契約に過ぎなかった。  そこには私が夢みたお互いに愛し合える夫婦というものはなかった、きっとデクス様と私が愛し合うことはないと私は思った。それだけデクス様の私を見る目は冷たく、そして彼は冷静そのものだった。そうしてデクス様は私をじいっと観察していた、その間に何を考えているのか分からなかったが、デクス様は考えこんでいた。でもやがて私に向かって真剣に、正面からこちらに向かって話しかけてこられた。 「シャイン、そなたは政治に興味があるか?」 「デクス殿下、私は政治に興味はあります」 「では何か政策を行ったことはあるか? 民のために何かしたことはあるか?」 「残念ながら私は政治をする権限がなく、何も実践したことはございません」 「それではそなたの領地で今年行った、何か政策を述べてみるがよい」 「はい、今年は幸いなことに豊作で麦の値段が、そのままだと市場で下がりましたので、我が公爵家で買い取って……」  私はデクス様にいろいろと私の公爵家の領地での政策について聞かれた、私は政策に興味を持っていて家庭教師にも話を聞いていたし、お父さまにも我が公爵家の領地についていろいろと聞いていた。だから私の知っている範囲で、我が公爵家が行っている政策について答えてみせた。そうしたら、デクス様は何度も頷いて真剣に私の話を聞いていた。  デクス様は立派な為政者でありただの子どもではなかった、私とデクス様はそうやって何時間も政治の話をした、途中で場所を応接室に移し私は椅子に座ることができた。デクス様はいろんな政治的なことを私に聞いてきた、私が詳しく答えられるものには全て答えた。答えることができなかった時には申し訳ございませんと謝り、次回までには答えを用意致しますと言った。 「とても興味深い話が聞けた、シャインよ。もう下がっても良い」 「何を言っているデクスよ、そなたのおかげでもう夕方ではないか、淑女を一人で帰らせるつもりか」 「いらっしゃったのですか父上、それでは私ではなく騎士たちを護衛につけて、彼女を公爵邸まで送り届けさせましょう」 「いや、お前が行ってくるのだ。お前たちは婚約したばかりだ、政治以外の話でもしてシャイン公爵令嬢を公爵家まで送り届けてこい」 「…………分かりました、父上。仰せのままに、それではシャインよ。行くぞ、王家が使う馬車はこちらだ」 「はい、かしこまりました」  私は乗ってきた公爵家の馬車ではなく、王家の馬車にデクス様と一緒に乗ることになった。デクス様は私をエスコートして馬車に乗せてくれたが、明らかに退屈そうな顔をしていて、それに一冊の本を持ってきていた。私がその本の題名を見てみると、『税制における法律的課題』というとても難しそうな本だった。私はこれは相当に勉強しないとデクス様の婚約者として恥ずかしいと思った。  そう私は思って明日からの授業の内容変更をお父さまに頼むことにした、デクス様は貪るようにして本を読んでいらして私たちの馬車は無言のまま進んでいった。でもしばらくしたら私は窓の外の風景が公爵家へ行く道ではないことに気がついた、そうして慌ててデクス様にそれを伝えようとした時だった。私たちは崖の近くに馬車を止められ、それから何者かがこの馬車を崖から落とそうとしていた。 「馬車が崖から落とされます!? デクス様!!」 「何ということだ!? 一体誰の仕業だ!?」  王家の馬車を狙ったということは王家に反する政敵の仕業だった、おそらく狙われたのは私ではなくデクス様の方だった。私は馬車から飛び降りることも考えたが、馬車の扉は念入りに縄か何かで固定されていた。デクス様も焦っていたがたった五歳の私たちにできることは無かった、そのまま馬車を幾人かに持ち上げられて、私たちは馬車ごと崖の上から落とされた。 「デクス様、危ない!!」 「うわぁ!? シャイン!?」  私はたった五歳の体でデクス様を守るように抱きしめた、私の体が少しでもデクス様を守る衝撃緩和材になればと思った。それぐらいしか私にできることはなかった、デクス様も私のことを反射的に強く抱きしめた、そうして私は咄嗟に走馬灯を見た。今まで生きてきた人生を振り返る幻を見た、その中に私たちが生き残る可能性が僅かにあったことを私は思い出した。 「ばっ、『障壁(バリア)』!!」 「シャイン!?」  私は咄嗟に『障壁(バリア)』の魔法を抱き着いたデクス様を中心にしてかけた、『障壁(バリア)』は初級魔法で一番簡単な防御魔法だった。でも魔法の強さは魔力とそれを使う人間の思いによって変わってくる、だから私は全力でもう二度と魔法が使えなくなってもいいから、そう思って『障壁(バリア)』の魔法を使ってデクス様を強く抱きしめた。  そうして私は凄い衝撃を感じて気を失いそうになった、でも私の腕の中には温かい体をしたデクス様がいた。だから私はできる限りの気力を振り絞って、『障壁(バリア)』の魔法を強く維持し続けた。ドカンバキンガラガッシャンという物凄い大きな音がして、そうして私とデクス様は馬車ごと崖の下まで落ちてしまった。 「シャイン!! 死ぬな、シャイン!!」 「……デクス様、ご無事ですか?」  少しの間、私は気を失っていたようだった。幸いなことにデクス様にはどこにも怪我が無いようだった。私は防御魔法を習っていたことに感謝し、デクス様を助けられたことを誇りに思った。そうして私は起き上がろうとしたがまだ体に受けた衝撃で動けなかった、それに私は右足に酷い痛みを感じた。だから私の右足を見てみると、どうやら右足の骨が折れているようだった。  私は自由に右足を動かすことができなかった、もう二度と歩けなくなるかもしれないと思った。でも私にとってそれはとても辛く悲しいことだったが、それでもデクス様を守り抜いたことは後悔していなかった、私はただの公爵令嬢で、デクス様はこの国の第一王子で王太子だった。どちらの命を優先すべきかは明らかだった、そんな私にデクス様は一生懸命に話しかけてくれた。 「ああ、俺は無事だ!! だから、シャイン、君も死ぬな!!」 「けほっ、大丈夫です。きっと助けがきます、デクス様」  私が公爵家に帰っていないことはもう伝わっているはずだった、それにデクス様が王宮に帰ってきていないことにもう気づかれているはずだった。だから私は必ず助けが来ると信じていた、だから私は力強くデクス様を安心させるように笑ってみせた。デクス様は私の言ったことに頷いた、そして壊れた馬車には辛うじて屋根が残っていた。 「――――ッ!?」 「足が痛むのか、大丈夫か。シャイン!!」 「大丈夫です、これくらい平気です」 「ゆっくりとそこに座るんだ、シャイン」 「ありがとうございます、デクス様」 「いや、これくらいは何でもない」  そうして私はデクス様の肩を借りて屋根が残っている馬車、その残骸の中に入って二人で一夜を明かした。幸いにも馬車の中には冬に使うブランケットが入っていた、それに私はお菓子が好きだったから飴玉を袋ごと持ち歩いていた。一体何日で救助がくるのかも分からず、私とデクス様は身を寄せ合ってブランケットに包まり、そして大人しく助けが来るのを待った。 「デクス様、飴玉をお召し上がりください」 「君も食べるんだ、シャイン」 「いいえ、私はまだお腹が空いておりません。デクス様だけでどうぞ」 「それでもいいから食べろ、食料は半分にするからな」 「デクス様、救助に何日かかるか分かりません。たった一個の飴玉でも、今は大切な食料です」 「分かっている、だからこそ君も食べるんだ」  デクス様はそう言って私の口にも飴玉を放りこんだ、私は夕食を食べていなかったので、ただの飴玉でも凄く美味しく感じた。それから私たちは食事の時間が来る度に、一個ずつ飴玉を食べていった。それでも私の持っていた飴玉は限られていて数日分しか無かった、だから私は生き残る確率が高いデクス様にそれを譲りたかったのだが、デクス様は必ず私にも飴玉を食べさせ続けた。 「……シャイン、……死ぬな」 「大丈夫です、デクス様。私はここにいます」 「……シャイン、……シャイン」 「はい、デクス様のシャインはここにいます」 「……そうか、……良かった」 「ゆっくりとお休みください、デクス様」  デクス様はようやく眠りにつかれたが酷く魘されていた、だから私はデクス様を抱きしめて優しく話しかけ続けた。デクス様はそうすると荒い呼吸が収まり、そして五歳の子どもらしい可愛らしい寝顔を見せてくれた。それで私も安心して眠りについた、夢の中では優しいお父さまやお母さまに会えた。でも現実は厳しかった、翌朝は私たちは寒さに震えて目を覚ました。 「まだ助けは来ないのか、シャイン大丈夫か?」
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