攻めside

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 何やってんだ、俺……。  自転車を乱暴に引っ張り出し、市営駐輪場を出たところで足を止めて、その場にしゃがみ込む。  真っ赤になった彼を見て、もしかしてコイツも俺のこと……とか、都合のいい妄想が膨らんで、彼が振り返る前に逃げるように電車を降りてしまった。  話しかけるチャンスだったじゃん!  俺何やってんの?  マジで意味わかんねー。  頭を抱えて地面を睨む。  いつもの俺なら、思った事はすぐ口をついて出てくるし、何なら手も足も出るし、いつもの俺なら、こんなぐだぐだ考えるよりも先に体が動くし……あ、だから逃げたのか。  つまるところ、俺は彼に拒絶されるのが怖いんだ。勝手に期待して、勝手な思い込みで突っ走って、嫌われてしまうよりは今のままでいいなんて。  俺ってこんな女々しいヤツだったんだなー。  もっと雄々しく男前かと思ってたわー。  ──あれ?  違和感に気づいて目の前の自転車をよく見る。  チェーン外れてんじゃん。 「……だから何なんだよっ今日は!」  片手で前髪を乱暴に掻き上げながら、苛立たしげに舌打ちをして唸る。  あーもー、ほんと今日サイアク。  このまま帰ろっかな。 「あの、……大丈夫?」  いろいろ投げやりになってきた俺の後ろから聞こえた声に、脊髄反射で振り向く。  ……うっそ。マジで?  俺をのぞき込む顔を認識した途端、またしても脳が仕事を放棄した。  あれ? 俺今何してたっけ? これ夢?  目の前に俺の天使がいる。  しかも、喋ってる。俺に? 俺に!  無言で凝視する俺に、少し困った表情を浮かべて彼は続けた。 「よかったら、俺の自転車乗っていく?」  は?  これって、二ケツのお誘いだよな?  え? 一緒に乗っていいの? 「……いいのか?」  まだ夢かもしれないと訝しむ俺に、天使の微笑みがとどめを刺してくる。 「学校着いたら、そのまま教室行っていいよ」  ほら、遅刻しちゃうよ。 にこにこと頷きながらそう言って差し伸べてくる彼の手を見て、一気に血圧が上がる。  は??  手繋いで教室まで行くってことか!? 「〜〜〜!」  顔が見れずに思わず俯く。  え? いいのか?  まだ付き合ってもいないのに!?  そこではたと気づき、暴走を始める思考をぶん殴って止める。  いや、待て! きっとそうじゃない。  落ち着け俺!  止まれ! 俺の妄想!  勝手に脳内変換される映像を振り払い、立ち上がって自分の自転車を駐輪場脇へと立て掛けに行く。  そして心を落ち着かせるためにゆっくりと深呼吸をして彼のもとに戻り、呆けてまだ出されたままの彼の手をむんずと掴んだ。 「じゃあ、頼む」  びっくりしてまた頬を赤らめる彼の手を引き、そのまま自転車にまたがって彼に向き直る。  くっ……。  視線が合った途端耳まで真っ赤にして、へにょっと眉を下げ見上げる顔が可愛すぎる。もう、抱きしめたい。  そのまま引き寄せそうになるのを、すんでのところでぐっと堪える。  危ねぇ、我慢だ我慢。  思わずお持ち帰りしそうになったわ。 「んじゃ、後ろ乗って」 「え、なんで!?」 「ん? なんでって、体格的に見ても俺が漕いだほうが効率的じゃね?」 「それは、そうかも、しれないけど……」  てか、しがみつかれたい。  腰ギュッてして欲しい。 「ほら、遅刻するぞ」  彼の言葉を冗談ぽく繰り返し、離したくはなかったが仕方なく手を離して促すと、少し躊躇った後おずおずと後ろにまたがり、控えめにきゅっとシャツを掴む。  うわ。何その可愛い仕草。  襲いたい。大好き。 「もっとしっかり掴まれよ。飛ばすぞ」  そう言ってグッとペダルを踏み込むと、圧が掛かった反動で落ちまいと、反射的に彼の腕が腰にしがみつく。  やべぇ、嬉しい。めっちゃニヤける。  落ちないように必死なのか、回す腕に力が入るのが嬉しくて、俺はさらにスピードを上げる。 「ちょ、うそっ、待って! 速い!」  触れる体温と背中に響く彼の声がむずがゆくて、幸せで。  俺は告白を決意する。 「なぁ、放課後も一緒に帰らねぇ?」 「……え?」 「歩いて帰るのもだりぃしさ、……それに──」  スピードを緩めて、ちゃんと彼に届くように言葉を続ける。 「あのさ、伝えたいことがあるんだ」
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