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愛梨沙と出会う
小さな公園の入り口の、生け垣に腰掛けて泣いている
十歳の愛梨沙の傍に、ジープが停まった。
降りて来たのは、すらりと背の高い、美人だった。
長い金髪を、風になびかせながら近づき、しゃがんで愛梨沙の顔を覗き込み
「どうした?」と、声を掛ける。
驚いて、涙の目を上げた愛梨沙は「お母さんが死んじゃたの」と
それでも、しっかりした声で言う。
「そうか~それじゃ泣くのも仕方ないな~」
「お姉さん、だ~れ?」凄く美人なのに、男の様な口調が、おかしいと思う。
「通りがかりの、美人だよ」「プッ」自分で、自分の事を美人だなんて、、
愛梨沙が、思わず吹き出すと「笑った、笑った、その調子」と
愛梨沙の頭を撫でる。
そして「お父さんは?」と、聞く。
こんな小さな子を、こんな所で泣かせているのは、許せない。
「お父さんは、居ないの」「えっ、じゃ、親戚の、、」「誰も居ないの」
愛梨沙は、先回りして言う。
「じゃ、これから、、」「施設に入るんだって、遠い所だから
学校も変わるし、友達ともお別れなんだ」
愛梨沙は、またも、先回りして言う。
「そうか~私と同じだな~」「えっ、お姉さんも?」
「うん、施設は嫌だったな~」そうだ、辛い事しか無かった。
「施設って、嫌な所なの?」愛梨沙が、心配そうな顔になる。
「いや、私が行った所は、特別な所だったからな、え~っと、、」
「愛梨沙よ」「そうか、愛梨沙が行く所は、そうでも無いと思うぞ」
「でも、施設でも学校でも、知ってる人は居ないんだよね」
「そうなるな」その言葉で、愛梨沙は俯き、また涙を零す。
暑い夏の日差しと、うるさい蝉の声に
「ここは暑いから、ちょっと、ジュースでも飲みに行こう」と、誘う。
「良いよ、お姉さん、何て名前?」愛梨沙は、涙を拭きながら聞く。
「絵瑠って言うんだ」「ふ~ん」「ほら、乗って」
絵瑠は、子供には高いジープの座席に、愛梨沙を抱き上げて、座らせた。
ちょっと走った所に、大きなマンションが有り
その一階は、カフェになっていた、そこへ、二人は入り
絵瑠は、珈琲のブラックを頼み「何でも、好きな物を、頼むと良いよ」
と、言う「ほんと?本当に何でも良いの?」「ああ、何でも良いぞ」
「じゃ」愛梨沙は、フルーツたっぷりのパフェを頼んだ。
「これ、一度で良いから、食べて見たかったんだ」
この店の前を通る度に、見本を見て、そう思っていたと言う。
母一人の稼ぎを心配して、こんな高い物は、遠慮していたんだな
絵瑠は、そんな愛梨沙の優しさが、健気だと思う。
そして、十歳だと言ったが、その割には、しっかりしているとも、思う。
「愛梨沙、友達と別れるのが嫌なら、私と暮らさないか?」
絵瑠は、唐突に、そう言った。
「え?絵瑠と?」「うん、また二人暮らしになって、留守番も多いが
友達とは、別れなくて済むぞ」「何で?」
「私は、ここの15階に住んでいる、だから校区は同じだろ?」
「うん、うちは、ここの先を曲がった所だから」
「急いで、決めなくても良いけど」「一緒に暮らすわ」
「えっ、もう決めても良いのか?」絵瑠は、あまりの速さに驚く。
「うん、明後日には、施設の人が迎えに来るんだもの」
「そうか、じゃ、色々な手続きは、全部、私がするからな。
愛梨沙は、何もしなくて良いぞ」「うんっ」愛梨沙は、にっこり笑った。
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