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真空の刃が枝を切り裂き、しかしそこに賊の姿はないことに目を見張ったヴァルラムだったが、目線をさげたところで、身を屈めた少年に気づいた。唸り声をあげ、苦痛に堪えている。
肩まで伸ばした褐色の髪には見覚えがあった。王の血族のひとり。ヴァルラムを廃しようと躍起になっている集団へ属している少年だ。
襲ってくるのは大人とはかぎらない。
その隙を突かれた形になったが、少年がこうしてうずくまっている理由は。
「おい、おまえ。大丈夫なのか」
ヴァルラムの声に、同じくうずくまっていたエリュシアは顔をあげた。
しかし痛みが走って顔が歪む。
「へいきですわ」
声が震えるが、これは聖女のちからを使ったせいだろう。
未成熟のエリュシアの体では行使不可能な、分不相応な大きさのちからを放ったせいで脱力しているだけで、時間が経てば回復するだろうと思われたが、どうだろう。
自分にかつての『聖女』と同じちからがあるらしいとわかってはいたが、周囲にひとがいる場所では使うわけにもいかず、エリュシアとしては生まれてはじめて行使した。一気に放出すると死ぬ可能性があるとかつては言い聞かされていたけれど、それが事実だとしたらエリュシアの寿命は危ないのかもしれない。
「まあ、あなたに会うという目的は果たせましたし、いま、この命が尽きたとしても本望というもの」
「世迷い事を」
「二度あることは三度あるそうです。だからきっとまた会えます」
「ふざけたことを。私のせいでおまえの命が尽きるなど、何度もあってたまるか。なぜ、またも私を庇うような真似をした、エルラ」
膝をつき、顔の高さを合わせてそう言ったヴァルラムに、エリュシアは驚く。
「どうしてその名を?」
「城内を歩きまわるのは誰でもできようが、迷いもせず自室に戻ることができる者は、この城を知っている者だけだ」
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