二度目まして、旦那さま。わたしがあなたの花嫁です。

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 ()のひとは憶えていないかもしれない。  けれど、それでもよかったのだ。お傍に侍ることができるのであれば、気づかれなかったとしてもかまわない。  だが拒まれるのは想定外で、エリュシアは断固抗議することにした。 「なぜですか。これは国が定めた婚姻です。覆すなどもってのほか」 「なぜと問うか、その(なり)で」 「このすがたが好ましくないとおっしゃいますか。なれどこればかりはわたくしのせいではなく、体にかんしては発展途上ということで、ご寛恕(かんじょ)いただければさいわいにぞんじます」  言っているうちにくちがまわらなくなってきたが、なんとか懸命に言い張る。すると相手はますます眉根を寄せた。  切れ長の赤い瞳をすがめてこちらを見やる。彼の意識にすこしでも留まることができる。とてつもない高揚感だ。うれしい。  薄い唇が開く。白く尖った歯が覗く。低音の声がエリュシアの耳を打つ。 「発展途上と申すか」 「はい。なにしろわたくしまだ七歳でして」 「……そなた、我の年齢を知っているのか」 「もちろんでございます。ヴァルラムさまは果て無き御代を生きる御方。数千歳とも数億歳とも囁かれておりますよね」  亜人族は長寿だ。なかでも竜人の場合は人間の数千倍は生きるとされる。亜人族の長であるヴァルラムの名と姿は、人間が暮らす世界でもっとも古い書物にも登場しており、正確な年齢は計り知れない。  知識のひけらかしにならないように気を使いつつ、それでも『貴方のことは知ってますよ』とさりげなくアピール。  感心してくれるかと思えば、またも盛大に眉をひそめられた。  ああ、あの眉がセクシー。  エリュシアは彼の表情の中でも、あの顔がとびきり好きだ。哀しげに下げられるより、ずっといい。  眼光が鋭いゆえに、睨まれていると感じるひとが多いらしいが、エリュシアは気にならない。むしろ大歓迎。だって彼が自分を意識した証拠だから。 「年齢差のことをおっしゃっているのであれば、どうぞお気になさらず。そもそもわたくしと陛下のあいだにはじめから存在しているものです。だからこそ、こうして馳せ参じたわけでございます」 「言っている意味がわからんのだが」 「若ければ若いほど、ともに過ごせる時間が増えるではありませんか。さあ陛下、わたくしと結婚してくださいませ」 「ガキは帰れ」
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