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賊が庭先で待っていた理由は、城内には不用意に立ち入れないから。
害をなす者を弾く術が掛けられているし、入口と出口が同一ではない。敷居ごとに違う部屋へ転移し、正しい順路を選ばなければ迷ってしまう。
「そうですか、エルラのことを憶えていてくださったのですね」
「忘れるわけがないだろうが」
まあたしかに、あんな死に方だ。忘れようにも忘れられないことは否めない。
申し訳なくて謝罪すると、ヴァルラムは首を振った。
「謝るのは私のほうだろう。あのような目に合わせてしまった」
「もう。そんなふうに思っているかもしれないから、わたしはもう一度会って伝えたかったのですよ」
「なにを……」
どこか泣きそうな顔をしている竜人の男に、エリュシアは告白する。
「ヴァルラムさま――いいえ、アルランさま。わたし、あなたのことが大好きです。死んで、こうして生き返って、やっとわかりました。他の方とは違う特別な『好き』は、あなたにだけ向けられるものだと。ヒトの血が混じった半端者の王であろうと、わたしにとっては一番素敵な王さまです」
『ヴァルラム』が代々の王に引き継がれている名であるということは、人間国には伝わっていない。
黒く長い髪と赤い瞳。
その姿に変じられるのが王の資格。
人間との混血であるアルランであっても、それは変わらない。
彼が、今代の王だ。
だが、血統を大事にするのは人間も亜人も同じらしい。
卑しい血としてアルランには敵が多い。だから普段は元の髪色と眼鏡姿で、王の側近として働いている。城内に暮らす、信用のおける使用人だけが知っている秘密だった。
「はいはいはい、感動の再会はそこまでにして、安全のために城内へお戻りください、お二方」
割って入ってきたのは、給仕服の男。エルラの知識によれば、彼はアルランの友人だ。王の側近という意味では、本来彼こそがその立ち位置にある。
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