二度目まして、旦那さま。わたしがあなたの花嫁です。

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 さて現世である。  エルラの記憶を持ったエリュシアは王女だ。一応、その身分である。  前置きをつけてしまうのは、エリュシアは妾の子ですらなく、王が避暑地で戯れに手をつけてしまったゆえに生まれた、下働きの娘だからだ。エリュシアの母は見目だけは大層よかったらしい。  らしいと推測するのは、会ったことがないから。  物心ついたころにはすでに引き離されており、母の顔を知らないのだ。  母だと思っていたのが乳母で、彼女とも引き離されたのが三歳のころ。  隠されて育ったエリュシアをどうにかして見つけだした王妃によってすべてが暴露され、「卑しい血の混じった娘」と罵られたときに前世を思い出した。同じようなことをよく言われていたからだというのは、我が事ながら哀しい。  かつての(せい)を思い出したおかげで、己を取り巻く環境は容易に理解できた。女の嫉妬は恐ろしいものであるし、男の自己顕示欲もまた恐ろしいものだ。  エリュシアはそれらを適当に受け流しつつ、己の立ち位置を模索した。  その結果『正妻にいびられる、実の親とも引き離されてしまった可哀そうな幼女』というポジションを確立し、王族として扱われないにしても、最低限の衣食住は保たれた環境を手に入れたのである。  公務がないため時間だけは無駄にあり、前世と今世の補完に努める。そのなかで知ったのが、前述した歴史だ。  エルラはいなかったことになっているし、亜人国との国交も断絶している。結界が張られ、往来すらできない状態だったが、近年になってその結界が緩んできた。  王は親書を送る。  ざっくばらんに言えば、『ご機嫌いかが、そろそろ仲良くしませんか?』といったやつで、過去に果たせなかった友好をいまこそ結びたいと申し出たという。  その理由は、我が国の経済状況が思わしくなく、他所の大国に攻められそうで困っているからだ。竜人さま、助けてくれない? というわけである。  ずいぶんと虫のいい話だなあとエリュシアは思った。  だが、これはチャンスだとも思った。  あのときと同じことをするのであれば、姫が嫁ぐことになるだろう。どうやらヴァルラム王は伴侶がいないらしいので、俗物的思考の上層部は『女をあてがっておけ』と考えるに違いない。  エリュシアの異母姉たちは気位が高い。大国の王子ならともかく、未開の地である亜人の王なぞ「勘弁して」となるのは容易に想像がつく。  そこでエリュシアだ。自分が志願すれば丸く収まる。  王妃たちは厄介払いできてうれしい。エリュシアはふたたび彼に会えてうれしい。言うことなし。
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