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ということで、エリュシアは花嫁としてやって来たわけだが、まさか拒まれるとは。
これでも待ったのだ。五歳の幼女を妻として差し出すのは、さすがに外聞が悪いと考えたらしく、七歳になるまでは待たされたのだ。よく我慢したものだと思う。
ひさしぶりに見たヴァルラムは、記憶にある姿からは若干年齢を重ねていたけれど、それが逆に魅力的に映った。
精悍さが増しており、よくもまあ独身でいたものだと感心と感謝だ。あのころも、婚姻には後ろ向きな独身主義だったが、今も変わっていないらしい。
「ですから、姫さまを妻となさることはないのではないかと。……まあ、年齢的な問題もありますが」
ぼそりと付け加えつつエリュシアに言ったのは、ヴァルラムの側近・アルラン。アッシュグレイの長髪をひとつにまとめている、眼鏡の向こうに深緑色の瞳を湛えた優男。
彼は人間との混血らしく、エルラの時代から「人間国との交渉役」として顔を見る機会が多かった。嫁いできたエルラの護衛もしてくれた。
懐かしさもあり仲良くしたいのだが、あちらはそうではないようで。我儘な幼女を持て余しているといった態度を隠そうともしていない。
エリュシアが志願したというのは伝わっているらしく、こちらに嫁いできたのも「我儘」と捉えている。そのうち飽きて、帰りたいと駄々をこねるのを待っているのだろう。
そうはいかない。エリュシアはもう一度彼に会えるのを待っていたのだ。せっかくこうして会えたのに、帰ってなんてやるものか。
「男性にとって、幼妻は浪漫ではないのですか?」
「……どこでそんな言葉を」
「あなどらないでくださいませ。母がわたくしを身ごもったのは、十三歳だったそうです。わたくしは七歳ですので、あと六年ですね。それなりに育つのではないかと思います」
「そんな特殊な例を出されましても」
「神殿長も、入ったばかりの巫女の少女を部屋に呼んで、『神の御心をお伝えしましょう』ってやりますし、神官たちも『神の思し召し』を実行して幼い巫女に『教育的指導』を――」
「あなたの国、ちょっとおかしくありません? ま、まさかとは思いますが、姫君は、その」
「御安心くださいな。身綺麗でございますわ」
少なくとも今世は。
後ろ盾のないエルラがどんな目にあっていたのか。憶えているからこそ、エリュシアは自分の居場所を確立したのだ。
メイド頭の女性を味方につけたおかげで、男女両方の理不尽はある程度避けることができた。メイド頭の夫は騎士団長だったので、男性陣はエリュシアに手出しすることもなく、安心して過ごすことができたのである。
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