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「陛下はべつに女嫌いというわけではないのでしょう? 婚姻の話を頭ごなしに断ったりはしていないようですし」
「それはまあ、国政といいますか」
「政略的結婚、おおいに結構。その恩恵でわたくしはここにいるわけですし」
「ものすごく疑問なのですが、なぜそこまでうちの陛下にこだわられるので? 姫君はとても可愛らしいですし、数年も経てば評判の美姫となりますでしょう」
「まあ、アルランさまのお好みに合致しまして?」
「わ、私のことはどうでもよろしい。つまり、亜人国へ嫁がずともお相手はたくさんいるのでは、ということです」
褒められたことがうれしくて、つい身を乗り出して訊いてみると、アルランはいつになく動揺を見せた。
普段は取り澄ました態度を崩さない『陛下の側近の顔』が剥がれたことがおもしろかったが、あまりからかうのもよくはないだろう。姿勢を正し、エリュシアは事実を告げる。
「ですがわたくし、国王の血を引いているだけの下っ端なので、国にいたところで、お相手なんて見つかりませんもの」
「……しかし、こちらへ嫁ぐとしても急く必要もないでしょう。年齢を重ねてからでも遅くは」
遠回しに「だから子どもは帰れ」と言われたが、その数年が命取り。
「いやです。待っているあいだにライバルが現れたらどうするのですか。陛下はあんなに素敵なのですから、わたくしが認めない嫁などダメです」
「妻を通り越して、母親になってませんかあなた」
「陛下を甘やかしたいと思っているのですが、これが母心というやつですか。わたくし、母を知らないのでよくわからなかったのですが、なるほど、そうなのですね」
「ちーがーうー」
アルランが頭を抱えて唸った。「どうしてくれよう、このガキ」と毒づいた声は聞かなかったことにしてあげよう。
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