はじまり

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『歌が好き……?』 好きです。 僕には それしかないんです。 『僕が歌い方を教えてあげる』 本当? だけど、どうして? 何もない僕を 『これからは僕が 君の家族だ。』 連れ出して、くれたの? ある日、突然に起こった奇跡。 暗闇から 初めて出た外の世界は 寒くて、冷たくて 清々しくて あぁ、こんなにも この世界は 美しかったのか。 名前すら知らない。 突然目の前に現れた人。 僕の瞳は 満月の色と言ってくれた人。 見上げると暗闇に、ぽっかり浮かぶ 眩しく輝く金色が 「ほら、金糸雀。あれが満月だよ。」 「…………」 僕の色だと言うならば ………この人はなんて 「とても、綺麗でしょ?」 ……神様みたいな人だろうと 思った。  満月の余りの美しさに 心が震えた僕が 次に目にしたのは 今まさに僕を抱き上げたまま 「……直ぐに着くから 掴まってなさい。」 「!?」 フワッと、空に浮いた この人のこと。 魔法……つかい? 昔、ドクターが気紛れに持ってきた 絵本に書いてあった 魔力を自由自在に 操れる英雄の末裔。 あの絵本に出てきた 魔法使いは、白い髭の おじいさんだったけど この人は……とても若くて。 「ん?飛ぶの怖い? ……目を閉じてていいよ。」 「!?」 ……信じられないくらい 綺麗だ。 猫がよく言ってた。 この世で僕が1番 美しいはずだって。 確かに猫の宝石みたいな 瞳は綺麗だけど 目の前のこの人の 吸い込まれそうに深い碧眼。 サラサラと風に靡く 真っ白な髪。 長い睫毛が覆う 涼しげな瞳と 薄くて形の良い赤い唇。 穏やかな笑みを蓄えてるのに ……どこか高貴で神秘的だ。 魔法使い? 神様? もしくは、天使? 本で見た英雄の名前が どれも当てはまる。 そんな英雄に抱っこされて 空を飛んでいる自分が 信じられないけれど。 「ふふ、……そんなに 見られたら恥ずかしいよ。」 「!?ぅ、ぁ……//」 「……まぁ、君ならいいや。 好きなだけ鑑賞して?」 なかなか見られない顔だよ? そう言って クスクスと楽しげに笑う。 笑うと、無邪気で可愛らしい。 急に恥ずかしくなって バッと下を向いた。 気付いた時には夜中の 空中散歩は終わっていて トンっと、煌びやかな お城のテラスに降ろされる。 「さぁ、入って? 今日から君の家だ。」 「!」 カララッ、テラスから ドアを開けて中に入るように促されたけど 「!?」 ずっと、暗闇にいたからか この部屋は キラキラ、チカチカして ……目が、潰れそうに眩しい。 痛い。 どうしたらいいか、わからなくて。 「あれ?……なに?」 「ぅ、う……」 目の前の彼の背中を ぎゅうっと握りしめると 目を瞑って、額を寄せた。 「えー、と」 困ったな、と 頰を掻いた彼は 「早く……言葉を教えなきゃ。」 そう言って、もう一度 僕を抱き上げてくれた。 この人の身体は 温かくて……良い香りがして。 少し触れるだけで ……安心する。 この人が、いたら 初めて見る 何もかも全部…… 怖くないのかも、しれない。 「じゃあ、まずはお風呂に 入ろうか!」 「んぅ?」 お、風呂? いつも、みんなが入ってたやつ? 上がってくると 身体からポカポカ湯気が出て 不思議だったんだ。 きょとんと首を傾げると なぜか また、クスッと笑った。 「おーい、この子綺麗にして来て!」 何処かに声を掛けると 直ぐに 「ノエル様!? どこに行ってらしたんですか!?」 「また勝手に出歩いて お父様に叱られますよ!?」 「あは、ごめんごめーん。 月が綺麗だからちょっと散歩に。」 「空中浮遊なんて 高度な魔法が出来るのは ノエル様だけなんですからね!? 私達に毎度追い付けない鬼ごっこを させないで下さい!!」 「はいはい、ごめんってばぁ! 次からは歩いて行くよ♪」 「約束ですよっ!? って、何ですかその汚い孤児は!?」 「背中に羽!? まさか獣人ですか!?」 「うん!ドクタージキルの所で 買ってきた。 後でお金払っといて!」 「もぉー、ノエル様ぁ!?」 この人、ノエルって言うのか ……名前まで綺麗だ。 あははっと朗らかに笑う ノエル様、と プリプリと怒っている 可愛らしい顔をしたメイドの女の子と 燕尾服を着た男の子。 男女は違えど 2人とも同じ顔をしてる。 ツノもない、獣の耳もない とすれば人間だろうか? オロオロして、見上げると 女の子の方に グイッと手を引かれた。 「仕方ないですね!! 女の子でしょ? 私が洗いますから!」 立ち止まると次は 反対の手を 男の子に引かれて 「何言ってんの!! いくらガキでも こんな胸がペタンコな女は いないでしょ!? 男だよ!僕が洗う!」 「はぁ!?何言ってるの ソル!! こんな小さいのに 男なわけないわ!? 私より小さいのよ!?」 「いいや、メル! こんなガリガリの 女の子なんて見たことないよ!?」 男!女!と 僕の手を引き合う2人に どうやって、伝えればいいんだと 目を回していた。 困ってノエル様を見ると 僕を見てまた 「あははっ」と 楽しそうに笑っていた。 こうなったら、自棄になって。 「!!」 「!、へっ!?」 ソル、という男の子に ギュッと抱き付いた。 僕は雄です。……多分 ドクターが言ってたから間違いない。 「あ、えっと?」 突然僕に抱きつかれ 驚いたのか 少し視線を泳がせたソル。 じっ、と……見つめると 「男の子……ってことで いいんだよね?」 「!!」 やっと、わかってくれた。 嬉しくて何度も コクコクと頷くと ソルも嬉しそうに笑って 少し照れたように頰を掻いた。 「なぁんだ、女の子なら お洋服貸してあげたのに。」 「僕が貸すよ! じゃ、じゃあお風呂行こうか! それでえっと……君名前は?」 「……ぅ、……ぅ」 「話せないの?」 「(頷く)」 そっか、わかったと 2人は優しく頭を撫でてくれた。 「大丈夫!話せなくても ノエル様がきっと 治してくれるから! 私達のノエル様は凄いのよ! この国で1番強い 魔法使いなんだからっ!」 「そうだよっ!心配しないで! じゃあお風呂に行こう? お風呂の後は髪も切ってあげる。」 「その後は食事かしら? すぐ準備するわね!」 テキパキと働く ソルとメル。 どうして? こんな僕のために? ノエル様も この2人も 「え?なに!? 何で泣くの!?」 「お腹空いた!? どこか痛い!?」 「っふ……ぇ」 「ノ、ノエル様ぁ! どうしたら!?」 ポロポロと泣く僕に 狼狽える2人。 みんなが親切にしてくれることが 嬉しくて不思議で 幸せで 申し訳なくて どうしたら良いかわからない。 いつの間に目の前にいた ノエル様が 僕の濡れた頰を ハンカチーフで拭うと 「泣き虫さんだなぁ。 僕の金糸雀は。 ……幸せで泣くより 笑ってよ。」 その方が、伝わるから。 ……わら、う? 笑った、ことがないから ……上手に出来るかな。 こ、こう? 「!?」 指で、唇の端を上げて ニンッと引っ張ると ノエル様はまた 「ははっ!」と 楽しそうに笑った。 あ、本当だ。 笑うと……幸せだ。 ノエル様が、笑うと 嬉しい、なぁ。 「よし、ご褒美に今日は 僕がお風呂に入れてあげる!」 「!?」 「ええ!?ノエル様が!?」 「なに?ダメなの?」 「ノエル様のお手を煩わせなくても 僕が……!」 「そんなに、金糸雀の身体を 洗いたいのか?ソル。」 「な!?// そんなことないですよっ!」 「ふふ、一応金糸雀は Ωだから、誘惑されないよう 気を付けなよ。」 「え!?嘘!? 確かに可愛いけど そんな色気は微塵も感じませんよ!?」 「まぁ、この子はまだ 初潮(ヒート)前だからねぇ。」 ヒート?色気? なんだろ、それ。 きょとんとする僕を 当たり前みたいに ひょいと抱き上げて 「ご主人様に洗って貰うんだ。 感謝してね?」 「!」 僕の垂れた前髪を掬うと ニコッと笑う。 ドキッ…… ノエル様といると 時々心臓が きゅうっと 痛い……気がした。
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