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しあわせ
たくさんのはじめてを
経験したあの日から
ノエル様は、お腹いっぱい
温かいご飯を食べさせてくれた。
どのご飯も美味しくて、口一杯に
頬張る僕を見て
「……落ち着いて食べなさい。
全部金糸雀のものだから
無くならないよ。」
優しく微笑む。
ノエル様の方が
僕なんかよりずっと偉い人なのに。
……ご主人様なのに。
どうしてこんなに
優しくしてくれるんだろう。
喋れない僕を叱らず
いつも隣で
本を読み聞かせてくれた。
ゆっくりと語る
ノエル様の優しい声を聞きながら
……眠るのが好きだ。
自分でも読めるようにと
文字の読み方
書き方まで教えてくれた。
楽譜が読めない僕のために
ピアノを奏でて
「歌いたいように
歌ってごらん?」
僕が自由に歌うことを
許してくれた。
適当な僕のハミング。
それを聞いていつも
嬉しそうに微笑んでくれる。
ノエル様に買われた日から
毎日
幸せばかりを、繰り返す。
怖いくらいに。
光に満ちた世界だ。
メルとソルも
僕の面倒を見てくれて
時々公務でノエル様が
留守になると
一人寝が寂しくて
シクシクと泣く僕を
自分達の部屋に連れて行き
一緒に眠ってくれた。
家族になってあげると
ノエル様は言った。
その言葉の通り
メルとソルは本当の
兄弟のように接してくれたし
ノエル様は……。
上手く言えないけど
僕にとって
いちばん、特別な人。
夢のような日々を
一年
二年
三年ー…
繰り返すうちに
僕はいつの間にか。
「……ノエル様!!」
18歳になった。
ノエル様と暮らす
穏やかな生活の中で
「おかえりなさい!!」
いつからか……人並みに言葉を
声を取り戻していた。
「ただいま、レイ。良い子にしてた?」
「はいっ!今日もノエル様のために
たくさん歌を作りました!」
「そう、後で聞かせて。
楽しみだな。」
「はいっ!!」
大好きな、ノエル様。あの頃と変わらず……より一層に優しくて……とても綺麗だ。
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