生誕祭

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生誕祭

「んんぅ、や、くすぐったいよメル。」 「こら!!じっとしてなさい! まだ口紅を塗ってないから!」 「いらないよぉ。僕男の子だもん。」 「王様の前では、最大限に着飾って煌びやかにするのが礼儀よ!? ノエル様に恥をかかせないように とびきり可愛くしないと。 他の獣人(ペット)に負けないように!」 パフパフと、メルが僕の肌に白粉を叩くから、ケホケホとむせこむ。 今日は、マーズ王の生誕祭。 城内外で様々な催しがあって、朝からカーニバルのように盛り上がっている。 現在のマーズ王は、獣人にも寛大らしく パーティーへ招待してくれた。 朝から衣装や、アクセサリーを 選ぶだけで大忙し。 ……早く歌の練習がしたいのに。 鏡の前でソワソワしていると 「この口紅、赤すぎない? 何だかいやらしいよ。」 「ちょっと、ソル。 セクシーって言ってよ。」 「ガキにセクシーなんて 必要ないだろ。 元々、レイの唇は赤いんだから 何も塗らない方がいいよ。」 「もー、口出ししないで! これは他の獣人との戦いなんだから! もし、気に入られたら王様の ペットにして貰えるのよ!?」 「王様……何人も獣人を 飼ってるもんな。 気に入ったら 後宮で贅沢三昧の暮らしだって。」 「そう!王様のペットなんて 最高のステータスよねっ!」 きゃっきゃとはしゃぐ メルの言葉に 「……」 せっかく塗った 真っ赤な口紅を ゴシゴシと腕で拭い取った僕を見て 「ちょっとぉ!? なにしてんの、レイ!? またやり直しじゃない!!」 「……嫌だ、僕、セクシーしない。」 「へ?」 「僕は……ノエル様のだもん。 王様のじゃ、ないもん。」 贅沢な暮らしも ステータスもいらない。 ノエル様以外に飼われるのは嫌だ。 ノエル様の傍にいられなくなる? 想像しただけで こんなに悲しい気持ちになって 「!?ちょっ……何で 泣くの!?」 「ふ、ふぇ……やだ、もん。」 「あーあ!レイを泣かせたー! ノエル様に怒られるー!」 「も、もう、ソルが悪いんでしょ!? 余計なこと言うからぁ!」 メルも、ソルも悪くない。 だけど 「ひっく、ぼく…… パーティー行かない!!」 「!?え……!?」 涙が、止まらないんだよ。 「王様の招待を断るなんて……! 無礼者だって、殺されちゃうかもしれないのよ!」 「レイ、良い子だから パーティーには行かないと。 僕らが悪かったよ、ね?」 「っ、ぐすっ……。」 「はぁ、せっかくのメイクが 全部取れちゃった。 どうしよう、もう直ぐに 出ないと間に合わないのに。」 「だから、レイはそのままでも か、可愛いって!!//」 「可愛いだけじゃダメなのよ!? 刺激的じゃなきゃ!! 女の戦いは、勝ち抜けないの!!」 「僕……男だもん。」 「あぁ!?泣かないで!?」 ボロボロと涙を流す僕に お手上げ状態のメルとソル。 真っ赤なルージュは 伸びて頰に付いてるし 白粉は、擦ったからマダラに 肌を飾ってる。 肩の辺りで切り揃えられた 髪も、ボサついてるし。 こんな僕が、美しいノエル様のペットなんて、恥ずかしいと、おもわれちゃうかな。 やっぱり、行けないよ。 ギュッと、拳を握って俯くと 「……どうしたの? 僕の金糸雀。」 「!?」 音もなく 後ろから僕を抱き締める ふわっとした温もりと 摘みたての花のような 甘い香り。 視線をあげなくても、誰かわかる。 「……ノエル様ッ」 「迎えに来たよ。お姫様。 ……随分と、個性的な格好だね。」 「ごめ……なさい。」 酷い格好の僕と違って 鏡越しに目が合ったノエル様は 今日も完璧に美しい。 魔導師の正装である 白い修道服に、金の刺繍が入ったローブ。 胸には王家の証である勲章が 輝いていた。 いつもは、ラフに下ろしている 長めの前髪を きっちりとオールバックにして いるから 長い睫毛に彩られた 綺麗な碧眼がよく見える。 目が合うだけでドキドキする。 格好良い……。ノエル様。 いくらペットでもこんな僕が 隣に立って良いはずがない。 生まれて始めて、自分の 容姿を恨んだ。 ……猫みたいに、キレイに造って 貰えば良かった。 ノエル様が綺麗すぎて、また ……泣けちゃうよ。 「うぅ、ノエル様…‥ぼく パーティー行けない。」 「どうして?頑張って歌を 練習しただろう。」 「……セクシー、出来ないし。 可愛くないから、ノエル様が恥ずかしいと思う。」 「……せ、セクシー?」 なにそれ? ノエル様の笑顔が ピクッと引き攣ったのを見て 「あ、あー!?わたし!! レイの髪を結ぶリボン取ってきます!」 「ぼ、僕も行くー!!」 「直ぐ戻ってきて 化粧をやり直しますからっ!」 メルとソルが声を揃えて 逃げるように 部屋から出て行ってしまった。
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