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 永遠に枯れない花のような愛だった。  永遠に消えない聖火のような恋だった。  瞳をのぞき込めば呼吸を忘れ、声を聴けば万病も快癒するのではないかというほど力が湧き、手をつなげば二人でどこまででも飛べる気さえした。  でも、それも今となっては――。 「ただいま」  仕事を終え、息苦しい満員電車に揺られて帰宅すると、部屋の明かりがすべて消えていた。どうやら妻は先に眠ってしまったらしい。  以前は晶久が帰ると、料理中だろうが好きなドラマの再放送を観ていようが、すぐさまリビングから駆けてきて、笑顔で「おかえり」と迎えてくれた妻の()(つき)。その笑顔を、晶久はしばらく見ていない。  くたびれた革靴を脱ぎ、リビングに入って部屋の明かりをつけると、ダイニングテーブルの上にあるラップがかけられた食器たちが目に留まる。椅子に鞄を置き、首輪のようにきっちりと締めていたネクタイの輪に指を通しながらそれらを眺めると、ラップの内側には少し水滴がついていた。  かつては明るく、二人の笑顔で挟まれていた食卓を見下ろしながら、子どもでもいたらまた違ったのかもしれない、なんてことをつい考えてしまう。  もう温もりを失っているであろう食器に手を伸ばそうとしたところで、晶久は友人である貴洋のことをふと思い浮かべる。  二人で夜中まで酒を飲んで話した夜から、もうすぐ三年が経とうとしている。一年に一度設けていた飲みの機会は、あれ以来失われてしまった。  今でも忘れない。妻を病で失い、されど他人の前ではあまり弱音を吐かない貴洋が漏らしたあの言葉。  ――深夜二時、空を見上げて陽の光を探しても、当然太陽はどこにもない。最愛の人を失うっていうのはそういうことなんだよ。  深く脳に刻まれながら、その意味を考えることはなかった。考えて、理解した気になりたくないから。
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