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窓の外で、一台の救急車がけたたましくサイレンを鳴らしながら通り過ぎて行った。
壁に掛けられた時計の針は午前二時を指している。こんな夜更けにどこかで事故でも起こったのだろうか。
鳥飼晶久は、ダイニングテーブルに置いていた缶ビールを持ち上げて残量を確認すると、傍らにあったグラスにそのすべてを注ぐ。頭の中で、夜の片隅で救助を要請した誰かの存在は風のように過ぎ去った。
「お前、昔より酒弱くなったか?」
キッチンの方で酒の肴を探していたこの家の家主、橋爪貴洋はナッツの袋を手にテーブルへ戻ると、それを乱雑に皿の上へ広げた。中学からの友人である貴洋とは、年に数回だけこうして酒を飲む機会を設けている。
「そうかもな。結婚してから会社の飲み会とかあんまり顔出さなくなったし」
晶久が適当に返すと、向かいに腰を落ち着けた貴洋もまた缶をプシュッと開け、そのまま口をつけはじめた。
「結婚してから、か」
マズいと思った晶久は、すぐさま「あ、すまん」と手にしていたグラスをテーブルに置いた。
「思い出させるつもりはなかったんだ。酒が入って、言い方を選ぶ判断が鈍った」
「あぁ」貴洋は茫洋とした目で自分が飲んでいたビールを晶久のグラスに注ぐ。何かをごまかすように注がれた酒は、まるで今の時間がなかったことになったみたいに、空きかけていたグラスを数分前の状態に戻した。
「もう二年も前のことだ。いい加減前を向かなきゃいけないな」
そう語る貴洋の目が部屋の片隅にある写真立てに走ったのを、晶久は見逃さなかった。
「やっぱり、まだつらいよな。奥さんのこと」
「この気持ちは、同じ思いをした人にしかわからないよ」
やや冷たい口調で言ったその直後、貴洋の口からこぼれた言葉は、妙に晶久の頭を支配して放そうとしなかった。
深夜二時、空を見上げて陽の光を探しても、当然太陽はどこにもない。最愛の人を失うっていうのはそういうことなんだよ。
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