Journey got his cigs

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 開けたての煙草の香りが好きだ。  周りから五月蝿いだのなんだの言われてるオレも、この時ばかりは口をつぐみ、厳かな気持ちで以て深く息を吸う。鼻からだ、よく乾いた葉っぱの臭いが堪らない。火を点ける前に自分の脳に教えこんでやるんだ。オマエは今日一日で最高のを味わうんだぞってさ。実際美味く感じるのはこの時くらいで、あとは煙が肺から追い出されちまった分の補充ってだけなんだ。ただそれだけ、美味くもなんともない。  そうして一日のうち、俺が口を閉じてる時間もこの時に全部使いきっちまう。だから寝る瞬間まで騒ぐのさ、仕方ない。静かなのは朝のうちにすっかり終わっちまうんだから。まあだからこそ、この清潔な時間を楽しむのさ。  いや、楽しんでた。かな。  今、起き抜けに臭うのは泥と血と火薬、死体、糞尿。  戦場さ。生きてる肉は減る、新鮮な肉だって出来た端から減ってって、増えるのは腐肉と蛆ばかりだ。五月蝿いオレに相応しい、最高の朝。  だから暫く黙ってない。オレが黙ると死んじまったって思われて、動いてたって土に埋められちまうんだからな。救護なんて来ないさ、死体に必要な薬は石灰だけ。それはまた別のやつの仕事。  煙草?あるよ、いくらでも手に入る。偉い奴等が税金をジャブジャブ注いだここは夢の国さ。酒、女、圧したらブーブー鳴くアヒルちゃんだって手に入る。女優も来たさ、セクシーにケツ振りながら歌って踊ってしてたよ。そのうち遊園地だってつくっちまうんじゃねぇか?ふかふかの死体が真っ赤なカーペットさ、最高だろ?  楽しむオレ等のチップは命だけ。負けたら石に名前だけ刻んで、身体はカーペットの仲間入り。分の悪いギャンブル、だから熱中しちまう。  そんな訳で、最近の朝はずっとゴキゲンだよ。口からクソを垂れるクソにドヤされながら口にクソを放り込んで、口からクソを垂れるクソにドヤされながらクソを掃除する準備。最初の一服はバキュームカーが周る順番を、クソが自らレクチャーしてくれるその時までおあずけさ。もちろん黙ってるとも。  だってよ?『話は簡単だ!男を殺して!女を殺せ!全部ゲリラだ分かったかクズ共!』なんて、随分とお上品なお口をお叩きお遊ばれるじゃねぇか。だったらこっちもお行儀よくお煙草をおスパスパしなきゃさ。どうせオレが騒ぐまでもなく辺りは騒がしいし、鼻だってとっくにひん曲がっちまって何の臭いもしない。  とりわけ今朝は最高だったよ。目が覚めたら煙草が見当たらない。思い出すのもバカバカしい、女にくれちまってたんだ。 「ソレ、ソレホシイ。ソレクレルダケ、アトイラナイ、カネ、イラナイダカラ」  薄汚れた格好で街をうろついてた女。稼いだ帰りだぁ?最高じゃねぇか。  下のは使わない代わりに煙草だけで良いっていうから頷いてやって、お部屋で丸ごとお楽しみだ。話が違うって?悪い悪い、どっちがケツなのか判らなかったんだよ。  そう、それでそのまま。疲れて寝ちまった女に今日の煙草を投げ捨てて、そのまま。  ん?あれ?おかしいな。ああ、分かった。なんだよ、昨日の昼から吸ってないんだ。そうか、そうだよ。  ねぐらに帰ったら、女房のケツみたいにでけえ蛆がいたんだ。左手だけ生えてる蛆。他はみんな千切れちまった、顔の潰れた幼馴染み。  ああ、その蛆虫に昨日の残りはくれちまったんだ。だから吸ってないんだ。それだけなんだ。  急につまんなくなっちまって、それっきり。
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