Journey got his cigs

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 生きるっていうのは、なるべく頭を働かせない事。死体と同じ、血の巡りなんて必要ない、ただ心には絶対に届けないってだけ。  とにかく頭を働かせちゃダメ。疑問を持った人から死ぬ。生きるために生きるのが私の人生。考えちゃダメ、考えたら生きるのがイヤになる。だから死なないためには馬鹿になるしかないんだ。  朝、サイテーな気分で目を覚ましたら体の上に煙草が置かれてた。封を開けてない新鮮な煙草。ホント、サイテー。私は窓を開けて、すぐにそれを投げ捨ててやった。そうしてやる。  趣味なんだ、煙草を捨てるの。  簡単でしょ?価値の高い女を抱けるのは、価値の高い男。価値が低い男は、価値の低いものしか支払わない。そうして手に入れた価値の低いものを、価値の低い私が捨ててやる。それってサイテーって事でしょ?ソイツだけじゃない。価値の低い私にわざわざ金を払う男だって、つまりはサイテーって事。理解る?私はアイツ等の価値を貶めてやってるんだ。  子供がいた。男の子。私と同じ、鼻筋の通った美しい子供。戦争が始まるかもなんて、噂が聞こえはじめた頃に産まれた、哀しくて、哀しい子供。  死んじゃった。お腹が空いて、空いて空いて。種芋をほじくり返して食べてたら、畑の主が怒ってクワを突き立てた。お腹が空かなくなった子供はそのまま畑の肥やし。私は畑だから、そのクワの持ち主にも種を蒔かれた。サイテー。  考えちゃ駄目。考えたら死ぬ。頭を空っぽにしてただ呼吸する。とにかく生き残って、たったひとつだけ、する事をして。それから死ぬ。私は自分で選んで死ぬんだ。  だからそれまでは、窓から煙草を捨ててやる。あの銘柄の煙草。ずっと昔、名前も知らない兵隊さんが『星空みたいだろ?おじさんの国の旗にも描いてあるんだ』なんてくれた。サイテーの象徴。兵隊の国の旗。ゴミだ、ゴミだ。ぜんぶオマエ等のせいだ。だから捨てる。  それくらいで赦してやる。赦して貰う。赦して、赦して。坊やと私と煙草と、でも兵隊さんはそれ以下なんだから。それで赦して。サイテーな兵隊さんの、貴方を殺した男はそれ以下なの。それくらいしか、してあげられる事がないの。赦して、赦して。  お酒はたっぷり飲む。どうにでもなれって、そうなってからじゃないとおかしくなれない。まともじゃいられないの。馬鹿じゃないと、空っぽじゃないと、とても生きていかれないんだから。  投げ捨てた煙草を男の子が拾った。あの子は多分私の子供。そうでしょ?だってサイテーなんだから。 「おありがとうございます。おありがとうございます。おありがとうございます…」  みじめね。あの男の子は私の子供。畑の肥やし。死体が動いてる。おかしい。すごくおかしい。アハハハハハハハハハハハ…
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