Journey got his cigs

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 買った煙草をポケットにしまい込んで、杖を突きながらよたよた歩く。足取りはゆっくりさ、ほんの少し前に片方なくなったばかりだ。  妹がいた。美しい女だった。大きい屋敷のメイドをやってて、どうやらそこの坊っちゃんとイイ仲になったんだ。子供が出来た。まあアソコは坊っちゃん一人だけだから流石に結婚って訳にはいかないけど、お屋敷から少し離れたところに家建てて貰って。旦那様も安心したと思うよ。だって戦争が始まるなんて噂が、その時にはとっくに囁かれてたんだ。坊っちゃんに何かあったら跡取りだろ。ああいったところの跡目争いはとても残酷で激しいものだけれども、それも安心。大切にされるはずなんだ。『きっと兄さんも仕事を貰えるはずだわ、こっちにいらっしゃい』なんて言われたのは数年前。でも俺とお袋の意見は違ってた。  妹とその子供に、決して迷惑はかけちゃいけない。俺達は、もう違うんだ。だから手紙も返さなかったし、産まれた子供にも決して会わなかった。  戦争がはじまった頃、多分俺とお袋を守ろうとしたんだろう、ふらっと戻って来た時だって、二度と来るなって、扉も開けずに追い返したんだよ。  違うんだ。もう俺とお前は違うんだからって。  そう、言ってたのに。  つい半年前さ、俺の村はなくなっちまって、お袋も死んだ。今更ムシのいい話だよな。俺はもう畑仕事は出来なくなっちまったから、仕事を貰いに妹のいる街に向かった。  妹の家、実はこっそり様子を見に行ったことがあったんだ。場所は知ってたから、でも、前に見た時とはまるで違っちまってて。ボロボロの壁、崩れた屋根。ここには戦争はまだ来てないはずなのに、慌てて近くの人に話を聞いたら、もう何年も無人だって言ってて、さ。  違う、違う、そんな訳ないって。旦那様のお屋敷に行ったけど、中に入れて貰えなくって。  警備のヤツに、坊っちゃんに子供はいない、メイドは死んだって、たったそれだけ言われて追い返された。  だから煙草を買って、歩いている。  穏やかな妹の、唯一の楽しみだった。吸ってた訳じゃない。暗い青に星が挿してあるその箱のデザインが好きで、誰かから貰ったソレを飾って、宝物みたいにうっとり眺めてた。もしかしたら坊っちゃんだったのかもしれない。あの人は私に星空をくれた、なんて言っていた。  妹が星空をみれるように、せめて家の下に埋めてやろうって、トボトボ歩いていると、 「ゲリラ!頭のおかしな大人!お前らのせいだ!」 突然、後ろから殴られて俺は前に倒れ込んだ。そのまま背中に乗っかられて、散々に頭を殴られる。ゲリラ?何の話だ。背中の上で誰かが喚いている。  ああ、違うよ。この足は、戦ってなくなったものじゃない。あの時、お袋を見捨てた俺への罰なんだ。  俺はそれですっかり動けなくなっちまって。  走り去る背中。その手に握られた、星空の箱を、星空の箱を見送っていた。
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