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飼ってるチンピラが妙にキョロキョロしているので、胸倉を掴みドヤしつける。ついでに懐に煙草を見付けたので貰っておいた。これから会う人間が確かこの銘柄を吸っていた。使える。
扉を開けると、そいつは『これはこれ御子……失礼、御当主様』なんて、椅子から立ち上がってこちらに笑顔を向けた。商売相手だ。こいつやこいつの部下の分、餌を与えて、まだまだ戦って貰わねばならない。
座って話をする。相変わらず戦況は動かないまま。ゲリラに手を焼いているらしい。なんであんなに湧くのか、と顔を顰めている。
私が武器を渡してるんですよ、とは答えない。戦争はとても儲かる。どうやって儲ける側に立つかというだけ。
男が胸ポケットを触ったので、俺は煙草を差し出した。吸いましたかな?と尋ねる男に、俺は答えず掌を少し向ける。でも男は断って、出したのは別の銘柄。
男の国では戦争を止めるべきという世論が勝ってきているらしい。つまりその銘柄のヤツは協力者ではなくなってしまった、と、そういう事なのか。
まともなのもいるんですね。とは答えない。
結局、高い昼食代だけ支払って、話は何も進まないまま。十全だ。
「あ、そういえば、先程の煙草。頂けますかな?」
帰りしなにそう言われた。どこまで図々しいのか。とは答えずに煙草を差し出す。
今日死んだ兵士の中に、この銘柄の愛好家がいたらしい。遺品として家族に贈ってやるつもりだそうだ。顔も知らぬだろうに。まったく忌々しい。
扉を出る。と、チンピラがいなくなっている事に気が付く。何かあったのかと不安になるが、体裁というものがある。堂々としていなければ舐められる。あれだけ金を払ったんだ。まさか裏切る事はないだろう。
正面玄関から出て男を見送る。本当はこっちからは顔を出したくないが仕方がない。先頭に立ちつつも扉の奥に陣取る。
男と軽い挨拶を交わしている時、ふと、門の向こうからこちらに向けて、誰かが走ってくるのを見付けた。何かを叫んでいる。ゲリラ?
警備が慌てて確認しに向かっていく。馬鹿が、ゲリラがここに来る訳ないだろう。誰が餌をやってると思ってんだ。まあ知らない事だろうが。
呆れながら眺めていると、突然、服を引っ張られた。
よろめいたところを支えられる。驚き目を向けると商売相手が俺の背後に身を潜めるようにして肩と背中を掴んでいた。何だ?男の目線の先を追う。
女?警備はなにし…
酷く間の抜けた、でも、よく聴いた音が鳴った。
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