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朝の一服だけ、変に静かなところ。
それが何か妙におもしろくて、私はアイツと結婚した。変わってるかな?でも、そんなもんでしょ。それくらいでいい。
アイツが実はスゴいビビリで、でも他に出来ることがなくて、私と結婚するために軍人になった事。イヤ。当たり前。子供もいなくて、もしアイツが死んじゃったら、ずっと一人暮らし?どーすんの。
戦争に行くのが決まった時もすっかり怯えきっちゃって、朝から晩までずっと喋ってた。こっちの気が変になるくらい。で、喋りながらずっと掃除してる。隅から隅まで、床が光るくらい。その間中ずっと煙草。ホント、向いてない。
行ったら行ったで手紙ひとつ寄越さない。『手紙なんて書いたら遺書になっちまう。静かなのはここに置いてく、煙草もおあずけさ』なんて言ってたけどね、ホントは違う。帰りたくて、死にたくなくてビビっちゃうからだ。
だから私も我慢して、我慢したまま。静かなのに慣れちゃうくらい、随分経った。
訃報を知らされた時、心臓が止まるかと思った。
届いたのは、アイツの幼馴染みの死。何を思えばいい?私は正直、ホッとしてしまった。
遺体のないお葬式。奥さんはめちゃめちゃ泣いてたけど、少し怒ってもいて、
「夫は嫌煙家だ!アンタんとこのにいつも押し付けられて、迷惑してたんだ!遺品だって!?馬鹿馬鹿しい!ホラ、アンタのだよ!」
渡されたのは、封の開いていない煙草。例の銘柄。
おっしゃる通り、朝の一服のために、前日の残りをいつも誰かにあげていた。特に幼馴染みの彼には、寝てる頭に乗せたり、ウチの電話番号を書いたスケベなピンナップと一緒にバッグの中に隠したり、吸口に口紅の跡をつけたりと、よく困らせていた。
そうだ、そうか。幼馴染みにこの銘柄のイメージがつくくらいには、二人一緒にいれたのか。
ごめんなさい。私はここで、ようやく涙が溢れた。
死ぬんだ。人は死ぬ。戦争は人が死ぬんだ。
ビビっちゃうよ、アイツ。幼馴染みが死んじまって。どーすんの。
吸ってんじゃん、やっぱり口ばっか。
今、残りは誰にあげてるの?
その人は、アンタの見たい顔してくれるの?
ホント、馬鹿なんだから。
煙草だけ先に帰ってきちゃってさ。
封は開けず、いつ帰っても良いように。
私はそっと、いつもの場所に、それを置いた。
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