優しい嘘つき

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 五年前に付き合っていた彼女から突然連絡が来た。  メールで一言、「あなたに会ってお話ししたいことがあります」って。  今更、何を話すことがあるというんだろう。  僕のことを一方的に振っておきながら。  ベランダの植物に水をやっていると飼い猫のシオンが裸足に懐いてきた。ちょっと運動不足で、丸っとしたフォルムの毛足が長い雑種だ。僕のマンションの近くの公園に捨てられていたこの猫との付き合いは三年以上になる。  シオン(こいつ)はもう老猫だ。  ベランダから見える東京の空は少し霞んでいる。  春になったんだ。彼女からの返信を待ち続けて、とうとう五年目の春に。  足元でゴロゴロと喉を鳴らす猫を抱き上げ、目の高さに持ち上げた。 「会いたいんだってさ。どうする?」  シオンの茶色の瞳は丸くなったまま動かない。 「僕にもパートナーが出来てるかもしれないとか、考えたりしないのかな? 相変わらず勝手な人だよね」  僕のパートナーは小さな声でニャアと鳴いた。優しく抱き寄せて首の後ろを撫でる。 「絶対に会わないって僕に約束させたくせにね」  会う時があったら、それはさよならの時だって、僕を脅した。  僕は彼女にずっと会いたかったのに。  
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