優しい嘘つき

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 電車に乗って久しぶりに東京を離れた。  シオンには明日の分までたっぷり餌を置いておいたので、自分でなんとかするだろう。  溢れるほどの優しさで毎日僕を癒してくれた彼女が突然冷たい人になり、僕には絶対会わないと言い出した日のことを、陽だまりを浴びたシートにもたれながら思い出している。  彼女が一方的に僕を拒絶し、僕にも二度と会いたいと言わないことを約束させた直前、僕は彼女に「どうしても会いたい」と言ってしまっていたのだ。  僕らが0から1へ変わった瞬間だった。  僕の一言で、全てが変わってしまった。  進めようとしたのに、終わってしまった。 「あなたのことが本当に好き」と彼女は言った。 「だけど、私があなたを好きだと言えるのはここだけ」とも。  明るく光るパソコン画面の、文字の上だけに僕らの愛がある。電源を切ったら繋がることもできない、閉じられた世界でしかそれは存在しない。  会ったら壊れる何かがあるからだって、僕には分かっていた。分かっていても会いたかったんだからどうしようもない。  五年後の今日も、その気持ちは変わっていない。      
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