あい捜し

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 以上、優しさをもって断ると言えばモテる男の立ち振る舞いのようだが、俺にその属性はない。    何人かの女と交際してきたが、女という生き物は信用に値しない。    ちょうど今日この会場に来る前、コンビニで俺よりひとつ年上であった元交際相手の女とばったり出くわし、見事に気まずいアイコンタクトだけ交わしてきたところだ。そいつのことを思い返してもそうだ――――。    あれはたしか俺の車で彼女を助手席に乗せてドライブしていた時、さっきまで楽しそうに話していたのに、何がトリガーになったのか急に不機嫌になりだした彼女。それに対して「どうした? なんか俺悪いこと言ったか?」と訊くと、「べつに」と助手席の窓に頬杖をつきながら視線をこちらに向けることなく返してきた。口調からもその不機嫌さが顕著。重ねて「言わないとわからないだろう」と話しても「わからないならいい」と彼女の不機嫌さに拍車をかける。    かといって黙って運転していると、今度は彼女の方から「ねえ本当にわからないの?」と追及される。いや理由を話したいのか話したくないのか……。あるいは単純にかまってほしくてわざとらしくそういう言い回しで俺を試しているのか。それが俺にはわからない。というかウザいし面倒だ。おそらくこれが俺の欠点であることも自覚している。彼女の本心を察して優しく相手してあげることが正解なのだろう。でも、そこまでして女と付き合うことになんの価値があるのだろう。俺にはわからない。    もう、女なんてものはこりごりだ。少し距離を置いて眺める程度、酒の席で談笑するくらいがちょうどいい。結婚なんてもってのほか。    女の愚痴はこのくらいにして少し推理してみることにする。合コン中俺と話していた女はほとんど一と二だ。三と四に関してはほとんど絡みがなかった。俺がイケメンなら三と四の線もありそうだが、よっぽど物好きじゃなければ俺の顔に惚れることなんてまずないだろう。だが今回は三六歳という猛者だ。人生経験も豊富で俺が女にあきあきしているように、彼女たちもイケメンなんてもうこりごりだと男を見る目が洗練されているかもしれず、あえて俺くらいのちょうどよさそうな顔くらいの奴を選定するのだろうか。ちょうどよさそうな顔については定義する必要がありそうだが、まあ……可能性として上げるならそんなところだろう。    三が「ちょっとお手洗いに」と席を立つと続けて四も席を立つ。そして一と二も席を立って男四人はテーブルに取り残された。    居酒屋のトイレなんてそう四人も入るスペースはない。おそらく女どもはこの後どうするかみたいな作戦会議が開催されているのだろう。想像にたやすい。    残された我々男たちもそろそろ会計だなと言う上司の一声を皮切りに、二次会へ行くか否かの議論が交わされる。    が、議論という高尚な言葉は分不相応であって、ワンチャンいけるかとか、あのブスはないだのとゲスい発言ばかり。俺も男だ、気持ちはわかるが本日その類の議論に興味はない。    二次会に行くか? という上司の問いに、冷めたテンションのまま俺はどっちでもいいと伝え、ラストオーダーで注文したレモンサワーをグイッと喉に流し込んだ。   「お前は良い子いなかったか?」    と、俺の表情や態度を察して気をまわしてもらったか、上司がビールジョッキ片手にテーブルで肘つきながら、旧友をまたいで俺の顔を覗くように言った。    そもそも三六歳の女に対して『子』とは、違和感があるけれど、四〇歳の上司からしたら『子』扱いなのだろう。  
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