7人が本棚に入れています
本棚に追加
三〇歳の俺からしたらおばさんとまではさすがに思わないけれどお姉さんと言うにも苦しい。なにせ俺自身もいい歳だ。自分が若いなんて思わないし、むしろおっさんに片足突っ込んでいる年齢であることは承知している。仮に上司の言う良い子、すなわち気にかかる女がいるとしたら、それはいなかった。でも別の意味でなら気になる子がいるのはたしかだ。――この手紙の差出人、アイ。
かといってこの場でアイが良いかなと言おうものなら、男たちからも面倒な斡旋があるから御免蒙りたい。
「俺はマイちゃんがいいな」と上司の友人が言った。
この男、四〇歳と言っても清潔感があり、今日の会にも少し遅れて来てバチっとスーツ姿。いかにも仕事ができる風な装いでイイオトコ感が滲み出ている。女から見れば今日の当たりくじはこの男である。……かのように見えるのだが、この男既婚者。いわゆる人数合わせ要因だが、当人は遊び人っぽい感じでチャンスがあれば誰か持ち帰ってやろうという下心が見え見えで、マイという女は自分の獲物だと高らかに宣言したのである。
「いやお前に訊いてないから」と上司は振り返って言う。
マイがどの子かわからなかったが上司も名前を記憶していない様子で、この男に「どの子だ」と訊き、そのマイとやらは四だと判明した。
ということは手紙の差出人の候補からひとり消える。一、二、三のいずれかの女がこの手紙の差出人アイなのだ。
一はまあ見た目としては悪くないと思うが、それ故にプライドの高さが垣間見える女。おそらく自覚はなくてその本質を隠しているようだったがなんとなく見透かせてしまう。そんな浅そうな人間性に俺はちっとも心惹かれないし、若いころはきっとモテたのだろう。私を口説いてみせなさいよという姿勢が鼻につく。
二は面倒見のよさそうな雰囲気で一とは対照的に優し気なオーラを纏っているようであったが、ビジュアル的に俺の好みではなかった。会話自体も積極的に盛り上げようと頑張っている姿は好印象で、グラスが空になると率先して何か頼む? と気遣ってくれて、この中の誰かひとりを選べと言われたら消去法でこの子、もといこのお方だ。
三はよくわからない。会話もしていないし、見た目もまあ可もなく不可もなくといったところ。俺の席から見る分では笑った時に歯茎が大げさに主張してくるくらいしか印象がない。
いっそのこと、この手紙を男連中に見せてしまって正体を確定させてしまっても良いかもしれないが、それこそ男どもから後日あの後どうだったかとか、そんな追及が降りかかってくること請け合い。それはそれで面倒だから、ひとまず俺は自分でこのアイという女の正体を捜すことにした。
女たちが席に戻ってくると上司は集金して会計を済ました。
屋外に出て、上司は女たちへ儀礼的に二次会の誘い文句を投げると「行きます」と返ってきた。
俺も上司の圧に負けて二次会へ行くことになった。
しかし一は迎えが来るからと帰り、一を除く二から四を引き連れて次の酒場に向かう。
一が退場したが、まだ一がアイである線は残っている。先に青昏公園へ向かった可能性も否定できない。
二軒目に着いて男四人、女三人で仕切りなおして乾杯したところ、時刻はすでに21時30分。手紙の指定時刻まで残り30分。
ひとまずこの場所から青昏公園までの距離、どのくらい時間がかかるかくらいは先に把握しとこうと考え、俺の隣に座る旧友に、こっそりこの近くに公園があるか問うと二つ公園があると言う。
最初のコメントを投稿しよう!